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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ふくろねずみのビリーおじさん

ソーントン・バージェス/作
前田美恵子/訳
富永秀夫/絵
金の星社 昭和45年5月5日/第2刷 490円

ふくろねずみのビリーおじさん
イラスト:あみあきひこ

ロッキーチャックの原作
「みどりがはら」や「みどりの森」に住む動物たちの姿をを生き生きと描いたソーントン・バージェスの作品は、日本ではバージェス・アニマル・ブックスという名前で刊行されました。所有している本には全10巻と書かれていますが、最終的には全20巻が出ていますのでけっこう人気もあったのでしょう。アニメ「山ねずみロッキーチャック」の原作と言うとピンとくる方が多いかもしれません。
「ふくろねずみのビリーおじさん」は何冊か持っているアニマル・ブックスシリーズの中で一番最初に買ってもらったものです。動物たちがごちそうを持ち寄ってのパーティーを描いた表紙の絵が大好きで模写した記憶があります。


田舎の中年おやじの物語
タイトルで「ビリーおじさん」とうたっている通り、主人公はおじさんです。遠くバージニアで暮らしている奥さんと子供を呼び寄せるエピソードなどもあります。別居の理由が説明されていないので、大人の目で読むとふくろねずみ夫婦の間に何があったのだろうかと気にもなりました。
主人公以外にもすかんくのジミー、あらいぐまのボビー、きつねのレッド、うさぎのピーターといった魅力的な動物たちがたくさん登場します。読み返してみて印象に残ったのはキツネやイタチなどの肉食系動物の扱いです。実際の自然界ではキツネはウサギを捕食します。これをそのまま描写すると「みどりがはら」の楽しいお話は成立しなくなってしまうので、他の動物物語でもよくみられるよう、彼らには乱暴者という役割が与えられています。

みどりがはらや、みどりの森にすんでいる どうぶつたちのなかでかけすのサミーと、からすのブラッキーと、きつねのレッドと、いじわるいたちの四にんくらい、こころの ひねくれたものは、いませんでした。とりわけ、こまったことは、その四にんが、そろいもそろって大うそつきだということでした。そればかりではありません。すきさえあれば、ぬすみをやりました。また、ほかのものを、ひどいめにあわせてやろうと、いつもそのことばかり かんがえていました。

なかなか手厳しい表現で、キツネやイタチが好きな子どもはがっかりかもしれません。
カケスも「おしゃべりでイヤな奴」という役回りがぴったりだと作者に思われてしまったのでしょうか。実際には他の動物を攻撃するようなことはあまりない鳥だと思うので少々気の毒です。
ビリーおじさんやその友人たちは乱暴者に怯えるだけの善良な存在なのかというとかならずしもそうではありません。仲間と一緒になって農家の犬をきつねのレッドにけしかけては笑うという意地の悪い面も持っています。
記憶の中では動物達の和気あいあいとしたお話だったのですが、意外にギスギスした面も描写されていて、アメリカの片田舎に住むおじさんたちの物語だと思って読むと面白かったです。


おいしそうな卵
当時は自分が動物になって「みどりがはら」で一緒に暮らす様子を思い描くくらいに好きな本でした。
鶏小屋に忍び込んでは大好物の卵を盗み食いする、害獣と言われてもしかたのない有袋類のお話のどこに一番ひかれたのだろうかとあらためて考えてみますと、この卵にお気に入りのポイントがあったような気がしてきました。
味や香りの具体的な描写はないのですが、いい歳をしたビリーおじさんが卵を食べたいという欲望に負けたために危険な目に合うエピソードが二回も出てきます。中年男の理性をも狂わせる卵とはいったいどれだけおいしいのだろうかと子どもの頃の自分は想像を巡らし、憧れたに違いありません。

アニメ化までされたシリーズにもかかわらずバージェス・アニマル・ブックスは現在絶版です。復刊ドットコムにリクエストもたくさん寄せられているようですが、そこそこメジャーな作品ではあるので読んでみたいという方は図書館を当たってみるのもいいかもしれません。自分の住んでいる地域の図書館には蔵書がありました。

(2017.3.20更新)

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