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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

うずらのボブのぼうけん

ソーントン・バージェス/作
塩谷太郎/訳
小林与志/絵
金の星社 1971年3月20日発行 490円

うずらのボブのぼうけん
イラスト:あみあきひこ

ボブは冒険しない
バージェス・アニマル・ブックスの第1巻です。
主人公は妻帯者で子持ちのウズラ、ボブ・ホワイト。シリーズが1巻ずつ刊行されたのか、全10巻同時刊行だったのかわかりませんが、記念すべき第1巻だというのに主人公はウサギやリスといった子どもに人気のある哺乳類を差し置いて鳥類、しかもウズラという地味さ。おまけに「うずらのボブのぼうけん」という題名にはなにかわくわくするものが感じられるというのに、ボブ自身は冒険らしい冒険をしません。
それでも「うずらのボブのぼうけん」は1巻目に相応しい本だと思えました。お話の面白さはさることながら、10巻におよぶシリーズのスタートとして、その世界観がうまく説明されているからです。


弱肉強食の世界
アニマル・ブックスに出てくる動物たちは擬人化されてはいますが、本来持っている習性は色濃く残されていて、弱肉強食の世界であることもはっきりわかるようになっています。
ふくろねずみのビリーおじさん」の感想では、殺戮シーンを描けないために肉食系の動物は乱暴者という役割を与えられていると書きました。「うずらのボブのぼうけん」では乱暴者であるという表現だけにとどまらず、きつねのレッドはボブを食べようと企んでいることが明言されていますし、ボブも自分が食べられる立場にあることを自覚しています。

動物たちが人間の倫理とは違う感覚で生活していることがわかる場面も随所に出てきます。
中でも印象に残ったのがスカンクのジミーとピーターうさぎの会話シーン。ボブの奥さんが大切に温めている卵を失敬しようとするジミーをピーターは非難しますが、スカンクは悪びれることなく次のようにこたえます。

「そうむきになっちゃ こまるな、ピーター。ボブのかみさんは、ずいぶんたくさん、たまごをうむってはなしじゃないか。一つや二つ なくたって、へいきだろうが。」
「ジミー、あんたって、ひどいな、そんなつもりだったのか。」
と、ピーターはいいました。
「おれのわる口は、やめてもらいたいな。おれはうまれつき、たまごがすきなんだ。きつねが、うさぎをすきなようにな。(以下略)」

結果的に人間臭く見えることがあっても、動物はあくまでも動物であるというアニマル・ブックスのスタンスが「うずらのボブのぼうけん」を読むことで自然とわかるのです。


生きていくのは大変なこと
お話は大きくわけてふたつのパートからなります。
前半は無事にヒナが孵ることができるようにいろいろな策を講じるボブのお話。ウズラの習性がストーリーにうまく組み込まれています。

後半では一羽のヒナがトラブルに巻き込まれることによって起こる、農場の男の子トムとボブ一家の交流が描かれます。交流といってもお互いの意思が通じるようになるわけではありません。ウズラの食性の結果、畑の雑草や害虫が退治され、それに感謝した農場の人間との間に共生の形ができるということです。 ボブ一家と触れ合うことによって

とりなんて、とってたべるよりほかに、やくにたたない ばかなもん

だと思っていたトム少年も勉強の大切さや生き物の命が平等であることを学びます。
子どもの頃は特に深読みをしていたわけではなく、単純に動物達が主人公の面白い話として楽しんでいたのですが、読み返してみると人生の指針となりそうな文章もちょくちょく出てきて興味深かったです。

とりや、けものの子どもたちも、みなさんとおなじように、がっこうにいきます。それはとてもむずかしいがっこうで、「よのなか」というがっこうです。そこで、とりや、けものの子どもたちは、いきていくには、どうすればいいのかとか、じぶんをまもるには、どうすればいいかということを、べんきょうします。

人間も動物も世の中の荒波に揉まれてこそ生きて行く力をつけられる。なにやらバージェス先生にやさしく諭されているような気分になりました。


ウズラにだけ苗字がある
「ビリーおじさん」が大好きだった記憶はあったのに「うずらのボブ」のことはあまり覚えていませんでした。
ただ、このシリーズに触発されて友達と共同でお話を書いたことは思い出しました。ひょんなことから都会に迷い出てしまったモモンガが森林警備隊員の手助けで森に帰るという内容で、主人公のモモンガの名前は「ボブ」でした。
原稿用紙数枚と挿絵一枚を描いたあたりで頓挫したかと思います。よくあることですね。
アニマル・ブックスは他にもまだ何冊か持っていますので、しばらくしたら別作品の感想文を書いてみることにします。

ところで「うずらのボブのぼうけん」の原題は「The Adventures Bobby White」です。なぜウズラにだけ他の動物にはついていない苗字がついているのかが気になってちょっと調べてみたところ、ボブのモデルになっているのはコリンウズラという種類らしく、その英名がBobwhite Quailだということがわかりました。鳴き声がBob-whiteと聞こえるのが由来だそうです。
更にマーガレット・A・ステンジャー作「うずらのロバート」という本が出ていることも知りました。ロバートの短縮系はボブですので、アメリカ人にとってウズラの名前がボブになることはなかばお約束なのかもしれません。

(2017.4.3更新)

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