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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ネーとなかま

小笹正子/作
小沢良吉/さしえ
フレーベル館 昭和45年3月1日 第一刷発行 定価500円

ネーとなかま
イラスト:あみあきひこ

ネーズーミー
乾物屋の古い蔵に住んでいるネズミの男の子が主人公です。家が蔵の南の隅にあるので名前は南ネー。弟の名前が南ズーで妹は南ミーです。蔵には他にも子沢山の西さん一家、偏屈な東さん一家、カナダ出身のおじいさんネズミが暮らしています。
お話が始まってすぐにネーとズーとミーが手袋をしてお父さんのヒゲを磨くシーンが出てきます。その時「ここは読んだことがある」という記憶が脳みその深いところから浮かび上がってきました。読み進めていくと、他にも「読んだ」ことを思い出すいくつかの場面がありました。読み返してみなければ、おそらく死ぬまで思い出すことはなかったであろう物語の断片が蘇ってくる感覚は少し気持ち良かったです。


東さんのネグレクト
東さん夫妻は先祖が大学の研究室で大切に飼われていたことを誇りに思っているので、イエネズミのネーやドブネズミの西さん一家を見下しています。初対面のネーに東さんの奥さんが放った言葉からも彼らがどんな性格なのかがわかります。

「まあ、おとうさん。さっきから、だれとはなしているのかと思ったら、こんなドブねずみをあいてにしてさ。わたしたちの『めいよ』にかかわりますわ。とにかくね、あんたたちのような、ドブなかまとは、わたしたちは、おつき合いはしませんよ。きたならしい。まあ、なんて、くさいこと! さあ、はやく、おかえりよ。」

そんな東さん夫妻の楽しみは食料を集めてはきれいに棚に並べること。食べるのを惜しむほど熱中しているので、自分たちはおろかジムとマリという二匹の子どもたちまでガリガリに痩せ細っています。
ある日、マリがどこからか漂ってきた美味しそうな匂いに目を閉じてうっとりしているところをネコに襲われるという事件が起きてしまいます。なんとか恐ろしい爪から逃れたものの大怪我を負ってしまったマリ。明らかに空腹が原因なのに、それを理解しないばかりか妹へのお見舞いの食べ物まで並べて飾ろうとする両親についにジムの怒りが爆発、棚をひっくり返す大暴れをします。

「おとうさん、おかあさん、どうです。このくさいこと。こんなにくさるまで、子どもにもたべさせないで、たべものだなをかざってなにになるのです。ぼくは、もう、こんなばからしい家にいるのは、ごめんです。」

東夫妻のふるまいがあまりにひどかったので、この啖呵にはすっきりしたことも思い出しました。

ところで、この本の表紙には頭の大きなネズミが目隠しをして手探りで進んでいる姿と、それを物陰から虎視眈々と狙っているネコの様子が描かれています。物語中この絵のようなエピソードは出てこないので昔から不思議に思っていました。今回読み返してみて、もしかするとこの絵はマリがネコに襲われる寸前の状況を描いたものなのではないかという考えが浮かんできました。目を閉じているだけのマリを挿絵の小沢良吉の感性が目隠したネズミとして表現したのかもしれません。


おじいさんネズミの正体
おじいさんネズミは面倒見が良く、汚れたネー、ズー、ミーを洗ってあげるために背中に乗せて川に入ったりします。三匹にしがみつかれた結果、背中に血のにじむハゲがみっつ出来てしまい、それがすごく痛そうだったことはよく覚えていました。
おじいさんネズミのことは動物図鑑で見たことのあるヌートリアという種類なんだろうとずっと思っていたのですが、改めて読んでみると自分のことを「においねずみ」であると言っていました。ニオイネズミはマスクラットの和名で、ヌートリア同様毛皮を取るため太平洋戦争の頃に輸入された大型のネズミです。


あまり好きではなかった部分
いろいろなことを覚えていたり、思い出したりするということは気に入って何回も読んだからでしょう。同時にあまり好きではない部分があったこともはっきり記憶しています。それは『ジャンプ。バン』。
子ネズミたちはネコから身を守るための技を持っています。「ジャンプ!」という号令のもと何匹もがいっせいに「バン!」と飛び跳ねてネコの目をくらませるのです。
みんなで協力してネコに立ち向かう、それは好きな展開。でも『ジャンプ。バン』というネーミングが嫌でした。
当時の自分はなぜそう思ったのか。今回考えてたどりついた結論は物語全体の雰囲気に『ジャンプ。バン』というカタカナ語が馴染まなかったからではないかということです。
作者の小笹正子は1928年生まれで「二十四の瞳」の作者・壺井栄に師事した経歴を持っています。だからというわけでもないのでしょうが「ネーとなかま」は出版された1970年よりも古い時代のお話のように感じられました。冒頭にあるお父さんが子どもたちに自分のヒゲを磨かせる場面からして、高度経済成長期の家庭での出来事というより家長制度の色合いの濃い昭和初期の雰囲気が強いです。またネズミたちが交わす言葉も、当時日常で耳にしていたものより少し古風な感じがしました。
その世界に『ジャンプ。バン』というマンガやアニメにありそうな、1970年代風のカタカナが出てきたので、子どもの頃の自分は消化しきれずに、なんだかそぐわないネーミングだと思って嫌ってしまった可能性はあります。


簡単なネズミの描き方

簡単なネズミの描き方1

挿絵の小沢良吉は装丁も担当しています。見返しと呼ばれる部分にたくさんのネズミの後ろ姿がデザインされているのが印象的でした。 スタンプのように押した指紋に耳と尻尾をちょっと書き足しているだけなのにしっかりネズミに見えるのが面白く、母親と一緒になって飽きずに眺めていた思い出があります。
本を買ってもらった翌年か翌々年が子年だったので、この手法で描いたネズミで年賀状を出しました。楕円にマルを2つ、そこにしっぽをちょろっとつければそれっぽくなってしまうので絵の苦手な方にはオススメです。

簡単なネズミの描き方2


小笹正子の童話集
フレーベル館の「ネーとなかま」は絶版ですが、七つ森書館から「小笹正子の童話集 ネーとなかま」が出ています。「ネーとなかま」以外にも短編童話13編が収録されているようです。
表紙の絵が気になる、という方がいらっしゃいましたら図書館で借りるのがいいでしょう。地元の図書館になくても、国会図書館にはあるので取り寄せれば、館内閲覧のみという条件はありますが、表紙の絵も確認することができると思います。

(2017.5.8更新)

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