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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ライオンのしっぱい

ピート・さく/え
しらきしげる・やく
偕成社 昭和44年9月1日 500円

ライオンのしっぱい
イラスト:あみあきひこ

ディズニー出身
「世界のカラーどうわ」というシリーズの中の一冊です。幼稚園~小学3年向きとなっている、文字だけのページもあるけれど絵もたくさん載っている本です。もちろんオールカラーで「カラーどうわ」という看板に偽りはありません。買ってもらったのは幼稚園の時でした。
表紙には「ライオンのしっぱい」というタイトルの上に小さな文字で「たてがみをのばしすぎた」とあり、伸び放題になったライオンのたてがみがキリンやサイといった他の動物に絡まっている様子が描かれています。絵がアニメテイストなのは作者のビル・ピートがウォルト・ディズニー・カンパニーを経て絵本作家になったという経歴の持ち主だからです。調べてみたところ、ディズニー時代に関わった映画は「ピノキオ」「ダンボ」「101匹わんちゃん」等々メジャー級の作品が目白押しでした。


禿げライオン
ライオンのヒューバートは立派なたてがみを誇るちょっとうぬぼれ屋。ところがある日、空から火花が落ちてきて自慢のたてがみが燃えてしまいます。空には黒雲があったと書かれているので、どうやら火花は雷のものだったようです。
大切なたてがみを失って落ち込むヒューバートの元へ、心配したゾウやキリン、ハイエナ、シマウマといった友達がお見舞いにやってきます。そこで出てきたのが禿げてしまった頭を治す特効薬は沼地に棲むワニの涙だという話。
なんだかんだと理由をつけてワニの所に行きたがらない動物たちの中で、ゾウだけがバケツを持って出かけます。

そこは、みんなが こわがっている ばしょでした。
ゾウは、おそろしそうに
ちょっと たちどまりました。
でも、きのどくな
ヒューバートのことを
おもいだし、
ゆうきをだして
すすみました。

ゾウが足に粘りつく沼に苦労しながら進んでいく絵は強く印象に残っていました。

なんとか持ち帰ったワニの涙をヒューバートの頭に塗るとたてがみはたった一晩でジャングルを覆い尽くすほど伸びてしまい、結果表紙の絵にあるようにたくさんの動物たちがたてがみにからまって身動きできなくなってしまいます。


ライオンにこれといった落ち度はない
テレビまんがのような絵は親しみやすく、小学校に上がってからも何度か読んだ作品です。
今回読み返してみて思ったのは「ライオンは別に失敗してないよね」ということでした。たてがみが燃えてしまったのは天災ですし、ワニの涙にしてもヒューバートが求めたわけではなく、友達が良かれと思って持ってきたもの。ましてや毛がおそろしく伸びてみんなに絡みついてしまうことなどは誰にも想像つかなかったことです。これをヒューバートのせいのように失敗と言ってしまうのはちょっと酷な気がしました。
題名としては「ライオンのさいなん」ぐらいが妥当なのではないでしょうか。幼い子どもに「さいなん」という言葉は難しいという判断から「しっぱい」になったのかもしれませんけれど。

唯一動くことの出来たサイチョウが古くて錆びついたハサミを持っているサルを連れてきてくれたおかげで、動物たちは自由の身になれました。
最後にヒューバートが中にいる毛の山に取りかかるサルの散髪屋さん。サイチョウの意見を聞きながら刈り進めていった結果、たてがみは真四角に揃えられてしまいます。
奇妙な角刈りカットに失望するのかと思いきや、ヒューバートはこれがお気に召した様子です。

しょくんが、
たとえ どんなところを さがしたって、
ぼくみたいに、
まっしかくな
たてがみの
ライオンなんて、
みつかるまいさ
…………………
そうだともね!

なんというか、日本人にはあまり馴染みのない、アメリカンなポジティブさを思わせてお話は終わります。


ちょっと不思議だったこと
先にも書いたように「ライオンのしっぱい」という題名の「失敗」という言葉に引っかかったので原題を見てみると「HUBBERT’S HAIR-RAISING ADVENTURE」となっていて「失敗」と訳されるような単語は入っていないことがわかりました。
「hair-raising adventure」を辞書で引いてみたり自動翻訳にかけてみたりすると「興奮でゾクゾクするような冒険」とか「ぞっとする冒険」となります。Google翻訳だけは「育てる冒険」とよくわからない訳になってしまいます。
不思議だったのは同じGoogle翻訳でも大文字で「HAIR-RAISING ADVENTURE」と入力するとなぜか「美容師」と訳されたことです。
「ヒューバートの美容師」。英語に堪能ではないのでなんとも言えませんが、サルの散髪屋さんのカットに満足するヒューバートという内容にふさわしい題名になるような気がする、ちょっと謎な翻訳結果でした。

(2017.5.20更新)

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