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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

サムくんとかいぶつ (前編)

マンロー=リーフ 作
渡辺茂男 訳
井上洋介 画
学習研究社 1968年初版 400円

サムくんとかいぶつ
イラスト:あみあきひこ

フェルディナンド
作者のマンロー=リーフは「はなのすきなうし」という絵本で広く知られています。その昔「牡牛のフェルディナンド」という題名でディズニーの短編アニメになっていますのでご覧になったという方も多いかもしれません。2017年にもアニメ化されアカデミー賞の長編アニメーション賞にノミネートされました。
今でも本屋さんに並んでいる「はなのすきなうし」と、同じ作者の作品でありながら絶版となってしまった「サムくんとかいぶつ」とでは知名度に大きな差があると思います。知ってるよという方もそのほとんどは40代以上でしょう。


マンガの読み過ぎはいけません
10歳のサム君は一週間に25セントと決められているおこづかいを全部つぎ込んでしまうほどマンガが大好き。
ある晩サム君がマンガを読んでいるとベッドの下からこれまでに見たことのないような怪物が這い出してきます。

そのかいぶつは、からだじゅう、みどり色がかった、銀色のうろこにおおわれ、ぎんぎんぎらぎら、ひかり、目玉は、火のようにまっかっか。鼻は、なんだか、ワニの鼻のようで、あたまのまん中には、さきっぽにまるい玉のついた、二本のゆらゆらゆれるほそいのがついていました。

おまけに尻尾には小さなジェットエンジンがついていて、背中には小さな羽があり、カウボーイがつけているようなガンベルトまで締めています。
話す言葉の語尾が「だわさ」になる、このヘンテコな怪物はマンガが大好きな子どもの元に現れるという「マンガキチーガイ種族」の一種、ニョゴニョゴでした。ニョゴニョゴはサム君をある時はガンマンや探偵、ある時は宇宙パトロールや遊園地のキャラクターが活躍するマンガ世界の冒険に連れ出します。

この手のお話にしては珍しいことに、サム君はマンガ世界ならではの面白可笑しい出来事にちょっとバカバカしさを感じたりして、冒険を心の底から楽しむ感じではありません。その上ニョゴニョゴがTPO無視で誘ってくるので勉強がおそろかになったり、ちょっとしたことでイライラしたりと日常生活にも影響が出始めます。
そう、ニョゴニョゴの種族名が「マンガキチーガイ」というちょっと悪意を含んだものであることからも分かる通り「サムくんとかいぶつ」はマンガに少々批判的なお話なのです。


理想的なアメリカの家庭
息子の異変に気がついたお父さんとお母さんはサム君と話し合いをすることにします。

「おとうさんとおかあさんは、おまえのぼうけんのことを、しばらくまえからしっていたんだよ。もちろん、ほんとうのことをしっているのは、おまえだけだがな。おとうさんたちがおまえぐらいのときに、やっぱり、かいぶつニョゴニョゴとあそんだものさ。もちろん、おとうさんやおかあさんのつきあったかいぶつニョゴニョゴは、おまえの友だちそっくりだとはおもわんがね。そのいとこかもしれんな。」

そしてお父さんはニョゴニョゴを追い払うために用意した図書館のカードをサム君に渡します。

「おとうさんは、やくそくするぞ。一週間に一どはそれをもって、おまえといっしょに図書館へいって、おまえがほんとうにたのしいとおもう本をさがすのをてつだってあげる。」

すごくいいご両親で、提案する解決策も子どもの読書意欲を伸ばしてあげることでマンガから無理なく卒業させようという文句のつけようのないものです。


さて、なにやら微妙に長いテキストになりそうなので今回は分割することにしました。続きは後編で。

(2018.4.20更新)

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