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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

異物混入のお話 その3

異物混入のお話 その3
イラスト:あみあきひこ

ワカサギとハチミツ
なんとなくテレビを眺めているとワカサギ釣りに挑戦中の女性がエサのアカムシになかなかさわれないでいるという場面に出くわしました。
この女性が数分後には釣り上げたワカサギをその場で天ぷらにして美味しそうに食べているのを見て「あぁ、ワカサギのお腹の中にあるかもしれないアカムシはいいんだ」と思ったものです。

もしかすると「ほんとうはイヤだったのだけど拒否すると番組として成立しないのでがんばって食べました」とか「アカムシなんて全然気にならないんだけど視聴者に求められているのはキャーキャー騒いでいる姿だと思ったのでがんばって嫌がってみました」という大人の事情があったのかもしれません。

テレビの演出的なことはともかく「あ、それはいいんだ」と思うようなことは割とあります。最たるものは虫嫌いな人でもあまり抵抗なく口にしているハチミツでしょうか。基本成分は花の蜜だとしても一度は昆虫に取り込まれたいわば体液にあれだけの人気があるというのも不思議なものです。
ワカサギの天ぷらにしてもハチミツにしても「そうゆうもの」として長年受け入れられているので、今更気にならないということなのでしょう。


給食にて

自分は好奇心からサソリやアリを口にするくらいの人間ですので、当然ワカサギもハチミツも気にせずに美味しく食べます。ただ、さすがに手が出ないというものがこれまでになかったわけでもありません。

小学6年生の時のある日の給食では「いただきます」をした後、スプーンを持った手が止まってしまいました。野菜とかき卵のスープの中に体長5ミリほどの幼虫が無数に浮いているのを発見してしまったからです。
ガタッと音をたてて立ち上がり「食べるのちょっとヤメ! 虫が入ってる!」と声をあげるとクラス内は騒然となりました。少し待つように指示を出した担任の先生が慌てて教室を出ていく姿が目に入りました。

今ほどうるさくなかったとはいえ給食に虫が、それも大量に入っているのはやはり問題です。となれば、異物がクラスメイトの口に入る寸前でストップをかけた行為は見事なもので、もしかするとマスコミにインタビューとかされるかもしれないという変な高揚感で待機していると、家庭科の先生による校内放送が始まりました。

「給食のスープに虫が入っているのがわかりました。これは野菜につく虫なので食べても害はありません。でも、嫌な人は残していいです。

「たいしたことないんですよ。よくあることなんですよ」的な言い回しに「え?それだけ?」と肩透かしを食った思いでした。給食のおばさんたちが糾弾されるような事件に発展するのかと思いきや「食べても問題ナシ」とまで言われてしまったのです。事を穏便に済ませたいという大人の思惑が透けて見え、せっかくつかんだ特ダネを上層部の意向で闇に葬られてしまった記者のような、釈然としない気持ちになりました。
当然家に帰ってから母親に事の顛末を告げたものの、ここでの反応も「まぁ、イヤねぇ」くらいしかもらえず、がっかりしました。まぁ、そうゆう時代だったということです。

時代といえば、完食することが美徳で、給食を残すことは悪みたいな頃ではありましたが「残していい」というお墨付きを与えられた以上、いくら害がないと言われてもさすがに虫の入ったスープを食べようとする子どもはいませんでした。その日の午後の授業はみんないつもよりちょっぴりお腹を空かせていたと思います。

異物混入シリーズは今回で終わりです。本当にどうでもいい話にお付き合いいただき、ありがとうございました。

(2018.7.25更新)

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