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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

スプーンおばさんのぼうけん

アルフ=プリョイセン 作
大塚勇三 訳
ビョールン=ベルイ 画
学習研究社 1968年 初版発行 420円

スプーンおばさんのぼうけん
イラスト:あみあきひこ

人情噺
ちいさなスプーンおばさん」の続編で、11編のお話が収録されています。前作が面白かったので続きを買ってもらったはずなのに、こちらも各エピソードの内容はあまり覚えていませんでした。
全体的には動物たちとの絡みが増えた印象がありますので、その分前作より気に入っていたかもしれません。
また人情味のあるお話は、おばさんの口調が長屋のおかみさん風なのと相まって落語のような面白さがあり「おばさん、終業式にいく」「おばさん、舌がかゆくなる」という連作が楽しかったです。

表紙に描かれているおばさんはネズミっぽい動物の背中に乗って川を渡っています。本編を読むとこの動物がレミングだということがわかり、ノルウェーの作品であることを感じさせてくれます。


裁判沙汰
カラスが出てくるお話は断片的に覚えていました。
ケガをした子どものカラスを森で見つけたおばさんは手当をして、自分で飛べるようになるまで屋根裏部屋で面倒をみてあげました。
ところが元気になった子ガラスが外に出たがるようになっても、情が移って離れるのが辛くなってしまったおばさんはなんだかんだと理由をつけてお別れの日を一日、また一日と延ばしてしまいます。

「だめだわ。日曜までまつよりないわ。だけど日曜になると、人がいっぱい森にでかけて、コケモモとりをする。となると、だれかがあんたをつかまえて、あんたをとじこめちまうかもしれないし、とじこめられるなんてことになったら、あんたは、ほんとうにつらいだろうねえ。(後略)」

子ガラスを案じるあまり、結果として自分が閉じ込めてしまっていることにおばさんは気づいていません。
ある日、屋根裏部屋に入ってきた大きなハチを追い出そうとして窓を大きく開け放った瞬間、おばさんは小さくなってしまい、そして子ガラスに咥えられて外へと連れ出されてしまいます。
森に帰ってきた子ガラスをたくさんのカラスが迎え、そしておばさんはカラス会議に引き出されました。早く家に帰して欲しいというおばさんの希望を、今度はカラスたちが様々な「親切な理由」で却下していきます。

もう、おばさんはとてもかなしくなって、木の根っこにかじりついたまま泣きました。もう、なんののぞみもなくなったんです。
「あたしがあんなにふうにしたのは、しんせつにしたかったからだけなのよ。」
おばさんは泣きじゃくりました。「あたしは、このちっちゃなカラスの子が、それはすきだったのよ。」

親切も時としてあだになるよというお話で、いつもは機転を利かせて問題を解決していくおばさんがやり込められてしまう展開が新鮮だったことも印象に残った理由のひとつでしょう。
この本を読んだ時よりもっと幼かった頃、ケガをしたアマガエルに赤チンをつけて世話をしていたつもりが結局は死なせてしまって大泣きしたという経験があったので、おばさんの心情がよく理解できたのかもしれません。


ゆかいな旅
「スプーンおばさん」は今でも本屋さんで買うことができます。
ということをネットで確認していた時に「スプーンおばさんのゆかいな旅」という作品も出版されていることを初めて知りました。初版は1970年。所持している2冊の巻末にある「新しい世界の童話シリーズ」ラインナップには載っていなかったので存在に気付かなかったようです。

せっかくなので図書館で借りて読んでみました。
前の2冊と違うのはおばさんとご亭主がオンボロ車で小旅行に出かけるというメインストーリーがあり、その先々でいつものような騒動が起きるという5つのお話で構成されている点です。
各話ではその後自宅に迎えることになる子ネコ、子ブタ、子イヌ、メンドリとの出会いや、ご亭主のおばさんへの愛情が描かれていて、ほのぼの気分を味わうことができました。

(2018.9.18更新)

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