若き新聞記者エドワード・マロンが南米の奥地で途方もない大発見をしたと噂されているチャレンジャー教授に取材を申し込むことから物語は始まります。
教授はまるで岩のようなからだをしていた。頭は、ふつうの人よりふたまわりも大きく、顔はひげぼうぼうで、おまけにほおは赤く、毛虫のようなまゆ毛のしたからは、灰色の目がぼくをぐっとにらんでいた。
顔は怖いけれど背が低い上に胴長短足というコミカルな見た目にマロンが思わず吹き出しそうになると教授は怒りを爆発させて殴りかかってきました。外見も行動も世間一般の人が思い描く学究の徒とはかけ離れた、なかなかエキセントリックな人物であることがわかります。
乱闘の末に気に入ってもらえたマロンは、教授がアマゾンの上流で太古に絶滅したはずの恐竜を発見したという情報を得ることができました。直情的な人間とは拳で語ればわかりあえるというのは洋の東西を問わない定番なのかもしれません。
チャレンジャー教授の手元にあるのはピントの合っていない写真と翼竜の羽の一部、そして他の冒険家の遺品である恐竜のスケッチだけです。とても学会に認めてもらえる資料とはいえません。
確たる証拠をつかんで自分を変人扱いする学者連中を見返してやろうとするチャレンジャー教授の再探検に、特ダネを狙うマロンはもちろんのこと、恐竜が現存していることに懐疑的なサンマーリー教授、そして冒険家のロックストンが名乗りを上げます。
恐竜たちも生き生きと描かれています。例えば草食恐竜の家族を観察している場面などでは
子どもの方は、腹いっぱい食べてしまったのだろう。おやのしっぽにぴょんと、とびのったりして、親にうるさがられていた。そのありさまは、ぼくたちのそばにいるイヌやネコの親子と、少しもかわらなかった。
と書かれていて、実在する野生動物を観察しているような気分を味あわせてくれます。
おかげでプテラノドンのくちばしと爪には毒があるというような独自の解釈を加えた設定も、そうだったかもしれないと違和感を覚えることなく読めました。
また、現地のインディアンに切り刻まれた大型肉食恐竜の心臓が3日間も動き続けていたという描写は恐竜の生命力の強さが感じられて好きだったことも思い出しました。
ところで、一行が探検する地域には恐竜以外にも原始人的な類人猿がいて探検隊を襲ってきます。「地底恐竜テロドン」もそうでしたが、恐竜のいる世界に原始人も生息しているという設定は昔の映画にもよくあったような気がします。もしかするとルーツはこの作品なのかもしれません。
「恐竜の世界」はアニメーション作家としても有名な久里洋二の挿絵が豊富に載っています。漫画のようにコミカルなタッチの絵はぱっと見作品の世界観と合っていないようにも思えます。しかし子どもの頃この絵が気に入らなかったという記憶は全然ありません。チャレンジャー教授たちの冒険をより楽しむことのできる絵であったということでしょう。