サイト名

昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

恐竜の世界

コナン・ドイル 作
久米 穰 訳
久里洋二 画
岩崎書店 1971年4月15日第7刷発行 380円

恐竜の世界
イラスト:あみあきひこ

The Lost World
コナン・ドイルの著作でシャーロック・ホームズ以外のものとなるとまずこの作品があげられるのではないでしょうか。日本では「失われた世界」という題名で広く知られているSF小説です。

若き新聞記者エドワード・マロンが南米の奥地で途方もない大発見をしたと噂されているチャレンジャー教授に取材を申し込むことから物語は始まります。

教授はまるで岩のようなからだをしていた。頭は、ふつうの人よりふたまわりも大きく、顔はひげぼうぼうで、おまけにほおは赤く、毛虫のようなまゆ毛のしたからは、灰色の目がぼくをぐっとにらんでいた。

顔は怖いけれど背が低い上に胴長短足というコミカルな見た目にマロンが思わず吹き出しそうになると教授は怒りを爆発させて殴りかかってきました。外見も行動も世間一般の人が思い描く学究の徒とはかけ離れた、なかなかエキセントリックな人物であることがわかります。
乱闘の末に気に入ってもらえたマロンは、教授がアマゾンの上流で太古に絶滅したはずの恐竜を発見したという情報を得ることができました。直情的な人間とは拳で語ればわかりあえるというのは洋の東西を問わない定番なのかもしれません。

チャレンジャー教授の手元にあるのはピントの合っていない写真と翼竜の羽の一部、そして他の冒険家の遺品である恐竜のスケッチだけです。とても学会に認めてもらえる資料とはいえません。
確たる証拠をつかんで自分を変人扱いする学者連中を見返してやろうとするチャレンジャー教授の再探検に、特ダネを狙うマロンはもちろんのこと、恐竜が現存していることに懐疑的なサンマーリー教授、そして冒険家のロックストンが名乗りを上げます。


リアルな雰囲気
「恐竜の世界」というタイトルに偽はりなく、冒険の過程で一行は様々な種類の恐竜と遭遇します。スケッチ画やピンボケの写真といった断片的な物証から恐竜という核心へ迫っていく流れには推理小説を読み進めるような趣があります。

恐竜たちも生き生きと描かれています。例えば草食恐竜の家族を観察している場面などでは

子どもの方は、腹いっぱい食べてしまったのだろう。おやのしっぽにぴょんと、とびのったりして、親にうるさがられていた。そのありさまは、ぼくたちのそばにいるイヌやネコの親子と、少しもかわらなかった。

と書かれていて、実在する野生動物を観察しているような気分を味あわせてくれます。
おかげでプテラノドンのくちばしと爪には毒があるというような独自の解釈を加えた設定も、そうだったかもしれないと違和感を覚えることなく読めました。
また、現地のインディアンに切り刻まれた大型肉食恐竜の心臓が3日間も動き続けていたという描写は恐竜の生命力の強さが感じられて好きだったことも思い出しました。

ところで、一行が探検する地域には恐竜以外にも原始人的な類人猿がいて探検隊を襲ってきます。「地底恐竜テロドン」もそうでしたが、恐竜のいる世界に原始人も生息しているという設定は昔の映画にもよくあったような気がします。もしかするとルーツはこの作品なのかもしれません。


ミスマッチではない
様々な危険を乗り越えて無事ロンドンに帰ってきた4人。チャレンジャー教授が学会で大勢の学者を前に披露してみせたのは生け捕りにしたプテラノドンでした。
しかし残念なことにプテラノドンは会場から逃げ出し、帰巣本能に従ってか南米方向へ飛び去ってしまいます。
この本を読んだ当時は既にネッシーなどの存在に対して充分懐疑的にはなっていたものの、プテラノドンをじっくり研究する機会を失ってしまうという結末にちょっとがっかりした記憶がありますので、作品自体に「もしかしたら」と思わせるような力があったのだと思います。

「恐竜の世界」はアニメーション作家としても有名な久里洋二の挿絵が豊富に載っています。漫画のようにコミカルなタッチの絵はぱっと見作品の世界観と合っていないようにも思えます。しかし子どもの頃この絵が気に入らなかったという記憶は全然ありません。チャレンジャー教授たちの冒険をより楽しむことのできる絵であったということでしょう。

(2019.4.7更新)

»ひとつ前の感想文を見る

ページのトップへ戻る
inserted by FC2 system