読み返してみて感じたのは全編に漂うシニカルな空気です。ダメなものはどうやってもみてもダメだけれど、とりあえず行動を起こしてみれば事と次第によってはうまくいこともある的なスタンスが、努力は必ず報われる的な教えに慣れていた子どもには陰気なものに思えたのかもしれません。
ただその「陰気」さには不思議な魅力があり、結果、何度も読み返すお気に入りの作品になりました。
カエルは、ヘビをうかがっており、ヘビは、ウサギをうかがっており、あわれなおばかさんウサギは、キツネをうかがっており、わたしは、このみんなを見まもっていたんです。
疑心暗鬼のまま過ごしていては身がもたないと判断したアライグマ博士の提案により、動物たちは誰も傷つけたりせずにお互い協力し合ってこの困難を乗り切る協定を結びます。
水が引いた後、それでも数ヶ月後にはまた同じような被害に見舞われると考えたアライグマ博士は問題を解決するために仲間と共に河を下ることにしました。
「団結すれば、もちこたえ。分裂すれば、くずれさる。」
「行動するか、さもなくば、滅亡するかだ、」
といったような格言を要所要所で口にする様子や、喉のためにいつも咳止めドロップを持ち歩いている病弱キャラっぽさを格好良く思っていました。こうした感情を大切に育てていくと中二病へ進化するのかもしれません。
クロヘビの次に印象に残っていたのは頭の弱い奴として描かれているウサギです。
田舎の景色を眺めながらみんなで河を下って行く場面があります。実は物語全編を通じて、この時のウサギ絡みのシーンが一番好きでした。
で、それから、ウサギガオカという名前の場所を見かけたときには、ウサギは、すっかりはしゃいでいました。しかし、しばらく行って、こんどは、ウサギコマギレという名前の場所にたどりつくと、あわれなウサギときたら、綿みたいに血の気をなくして白くなり、作業船の中に入っていってしまったきり、夜になるまで二度と出てはきませんでした。
「ウサギコマギレ」という変な地名が可笑しく、そんなものに一喜一憂してしまうウサギの愚かさがツボにはまったのだと思います。おかげで「ウサギはバカ」というイメージが刷り込まれてしまいました。
(中学生になってリチャード・アダムスの「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」を読んだことでウサギの名誉は回復されます。)
わたしの上着のポケットに入っている紙袋が、ガサガサ鳴って、アライグマの目が、キラキラしだした。「あんた、もしや棒チョコもってなさるんじゃないかな?」アライグマは、たずねた。
棒チョコはアライグマ博士の好物です。中にナッツがたっぷり入っていると描写されていますので、スニッカーズ的なチョコレートバーなのでしょう。しかし子どもの頃はそうした商品についての知識が乏しく
アライグマは、その銀紙をくるくる丸めて、木の穴のなかにしまいこんだ。
とチョコを包んでいたと書かれている「銀紙」から、おやつとしてよく食べていたフィンガーチョコを連想していました。細長いビスケットをチョコレートでコーティングしたものがひとつずつ銀紙に包まれている、紙の箱に入った森永製菓のお菓子でした。現在では製造されてなく、カバヤ食品から同様のものが発売されているようです。
口の中に入れてチョコレート部分だけを舐めとった後、ビスケット部分を楽しむという食べ方もしていたというどうでもいい記憶まで蘇ってきました。