ふたりが乗船したのはまるで100年前からやってきたような捕鯨帆船「みなごろし号」。乗員は荒くれ者ばかりで、海賊船といったほうがしっくりくるような船でした。
当然近代的な捕鯨砲などは備え付けられていません。ボートでなるべく近づいて手投げで銛を打ち込むというのが彼らのやり方で、仕留められたクジラはその場で解体され、肉は大鍋に放り込まれます。
「熱して油をとっているんだよ。クジラの脂肪をグラグラ煮て、油を出すんだ。脂肪はクジラの外套のようなものでね。」
そもそもアメリカの捕鯨は日本のように食用の肉を得ることではなく、油を採ることが主目的でした。
独裁的な船長には不満を持つ乗組員も多く、反乱の危険をはらんだ航海が続きます。クジラ以外の生物としては、苦労して仕留めた獲物を横取りしようとするシャチやサメが出てくるくらいなので、このシリーズに期待していた珍しい動物の珍しい生態を知りたいという欲求はあまり満たされません。
また、これまでのお話のように野生動物を生け捕りにしたり守ろうとするのではなく、捕鯨、すなわちクジラを殺すことが最終目的となっていることも子どもの頃の自分は不満だったと思います。
おまけに捕鯨シーンの描写はかなり残虐です。
例えば銛で刺されたクジラの反撃を受けて海に放り出されてしまったハルが、突き刺さった銛を頼りにその背中に登った時の様子は次のように描かれています。
おそらく、傷ついた肺と、量のへった血では、長いあいだもぐっていられるだけの酸素がないのだろう。ともかく、この大きい雄クジラは、ほんの1分間ほどもぐり、そして浮きあがることをくりかえした。
浮きあがるたびにクジラは、空中に血を吹きあげた。その血がハルにふりそそいで、とうとう頭から足の先まで、ベットリと血のころもをくっつけてしまった。
こうしたもろもろの事が影響したのでしょうか。「決死の捕鯨船」はストーリーを始めとし、覚えていたことがほとんどない、印象の薄い作品になっていました。「ハルとロジャーの冒険大作戦」ブランドに期待していたものが得られなかったからかもしれません。
冒険小説としては面白く読めましたのでシリーズから切り離して読めていれば、また違った思い出が残っていたような気がします。
クジラではありませんが、小学生の時、静岡県出身の先生の「地元のスーパーのお肉売り場では普通にイルカを売っている」という発言に「イルカを食べるなんて!」とクラスが騒然となったことがありました。
かなり獣臭いという話は耳にしますが、まだ口にしたことはありません。