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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ハルとロジャーの冒険大作戦 10

決死の捕鯨船

ウイラード・プライス 著
亀山竜樹 訳
中山正美 さし絵
集英社 昭和49年7月 初版 450円

決死の捕鯨船
イラスト:あみあきひこ

肉は食べません
世界中の珍しい動物を集めて動物園やサーカスに提供する父親の仕事を手伝うハルとロジャー。今回はアメリカの科学者と共に捕鯨船に乗り込みます。
いつもと大きく違うのは、初めからクジラを生け捕りにするつもりはないという点です。兄弟の経験値を高めることに重点が置かれているミッションという意味では3巻の「火口探検船」に近いかもしれません。

ふたりが乗船したのはまるで100年前からやってきたような捕鯨帆船「みなごろし号」。乗員は荒くれ者ばかりで、海賊船といったほうがしっくりくるような船でした。
当然近代的な捕鯨砲などは備え付けられていません。ボートでなるべく近づいて手投げで銛を打ち込むというのが彼らのやり方で、仕留められたクジラはその場で解体され、肉は大鍋に放り込まれます。

「熱して油をとっているんだよ。クジラの脂肪をグラグラ煮て、油を出すんだ。脂肪はクジラの外套のようなものでね。」

そもそもアメリカの捕鯨は日本のように食用の肉を得ることではなく、油を採ることが主目的でした。


グロい描写
船長のグリンドルは乗組員がピンチに陥ってもその姿を見て暗い喜びに浸るようなサディストで、ハルとロジャーにも次々と危険な任務を課しました。既に高額な乗船賃をせしめているのでふたりが命を落とそうとも知ったことではなく、むしろ厄介払いができるぐらいにしか思っていなかったからです。
「みなごろし号」がなぜ頑なに昔の流儀で捕鯨を行っているのかということは物語の中で語られていません。おそらく設備投資をするよりは乗組員を危険に晒す方が自分の懐が痛まないという、グリンドル船長の身勝手な判断だったのだと思います。

独裁的な船長には不満を持つ乗組員も多く、反乱の危険をはらんだ航海が続きます。クジラ以外の生物としては、苦労して仕留めた獲物を横取りしようとするシャチやサメが出てくるくらいなので、このシリーズに期待していた珍しい動物の珍しい生態を知りたいという欲求はあまり満たされません。
また、これまでのお話のように野生動物を生け捕りにしたり守ろうとするのではなく、捕鯨、すなわちクジラを殺すことが最終目的となっていることも子どもの頃の自分は不満だったと思います。

おまけに捕鯨シーンの描写はかなり残虐です。
例えば銛で刺されたクジラの反撃を受けて海に放り出されてしまったハルが、突き刺さった銛を頼りにその背中に登った時の様子は次のように描かれています。

おそらく、傷ついた肺と、量のへった血では、長いあいだもぐっていられるだけの酸素がないのだろう。ともかく、この大きい雄クジラは、ほんの1分間ほどもぐり、そして浮きあがることをくりかえした。
浮きあがるたびにクジラは、空中に血を吹きあげた。その血がハルにふりそそいで、とうとう頭から足の先まで、ベットリと血のころもをくっつけてしまった。

こうしたもろもろの事が影響したのでしょうか。「決死の捕鯨船」はストーリーを始めとし、覚えていたことがほとんどない、印象の薄い作品になっていました。「ハルとロジャーの冒険大作戦」ブランドに期待していたものが得られなかったからかもしれません。
冒険小説としては面白く読めましたのでシリーズから切り離して読めていれば、また違った思い出が残っていたような気がします。


クジラのお味
クジラ肉と聞くとある年代の人々は学校給食を思い出すようです。1970年代まではポピュラーなメニューだったらしいのですが、自分の記憶にはありません。
しかし家では生姜醤油に漬け込んでステーキにしたクジラがときどき食卓にのぼったので味はよく知っています。脂身のない赤身でやや酸味があり、しばらく噛んでいても肉の繊維が口の中に残ったり、どうしても噛みきれないスジが入っていたりしたので、嫌いではなかったものの「わーい!クジラだ!」と喜ぶようなこともないおかずでした。

クジラではありませんが、小学生の時、静岡県出身の先生の「地元のスーパーのお肉売り場では普通にイルカを売っている」という発言に「イルカを食べるなんて!」とクラスが騒然となったことがありました。
かなり獣臭いという話は耳にしますが、まだ口にしたことはありません。

(2019.10.13更新)

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