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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

くまのパディントン

マイケル・ボンド 作
ペギー・フォートナム 画
松岡享子 訳
福音館書店 一九六七年一〇月一日 初版発行

くまのパディントン
イラスト:あみあきひこ

居候
ブラウン夫妻は駅のプラットホームで一匹のクマと出会います。一緒に暮らしていたおばさんが年を取って老グマホームに入ることになったため、ペルーからイギリスへ渡ってきたというそのクマの首には札が吊るされていました。

どうぞ このくまの めんどうを
みてやってください。おたのみします。

可哀想に思ったブラウン夫妻はクマを引き取ることにし、出会いの場である駅名にちなんでパディントンという名前をつけてあげました。
パディントンを迎え入れたブラウンさん一家は長いきれいな髪をした青い目の女の子のジュディとそのお兄さんのジョナサン、そして家政婦のバードさんの五人家族でした。そしてこの一家を中心として、ペルーの片田舎から大都会ロンドンへと出てきたクマが巻き起こす数々の珍騒動の幕が切って落とされます。

久しぶりに読んで思ったのは、異なる文化圏の住人や人ならざる者が居候するお話って藤子不二雄作品によくあるよね、ということでした。不思議な友達が家にいて毎日一緒に遊べたらいいなという子供の想いは世界共通なのかもしれません。


パディントンというクマ
パディントンはとても礼儀正しいクマで、都会の生活に馴染みがないゆえに様々なトラブルを引き起こしますが「パディントンだからね。しょうがないよね」という気分にさせられる魅力を持っています。
またパディントンは何か問題に直面してもいつの間にかうまい具合に収まってしまうという幸運な力を持ち合わせているようです。

「どういうんでしょうね。パディントンって、いつもうまく災難をのがれるわね。」
と、ブラウンさんの奥さんがいいました。
「そりゃ、パディントンがクマだからですわ。」と、バードさんがいいました。「クマはコマらないようにできてるんですよ。」

厳しい面もありながら良き理解者でもある家政婦のバードさんのこの一言はパディントンという存在をうまく表しているように思います。
そして「クマはコマらない」はダジャレなんでしょうか。原文がどう書かれているのかはわかりませんが。

パディントンの好物はママレードです。子どもの頃は苦味があってあまり好きではなかった上に、ペルーから持ってきた残りは海に浸かって海草の味がすると書かれていてウェッとなったことも思い出しました。


キャラクターイメージ
この作品が出版されたのは1958年、日本での初版は1967年です。以来多くの人々に愛され、パディントンは広く認知されるようになりました。赤い帽子と青いダッフルコート姿のキャラクターとして思い浮かべる方も少なくないと思います。
ところが「くまのパディントン」ではパディントンはこの格好をしていません。
ブラウン夫妻と最初に出会った時は

広いつばのついた、何とも奇妙な帽子をかぶって

はいたものの、色に関しての記述はなく、表紙のイラストでは帽子は青く塗られています。
青いダッフルコートは後のエピソードでブラウンさんの奥さんに百貨店で買ってもらうことになります。ただ、この時一緒に買ってもらった帽子はボンボンのついた毛糸の帽子で緑色でした。
ざっくり調べてみた感じでは、1989年のアニメ版から赤青のコスチュームが定着し、そこからパディントンと言えば赤い帽子と青のダッフルコートというキャラクターになっていったような気がします。

ペギー・フォートナムのイラストは現在広まっているイメージと比べると挿絵として描かれている分キャラクターとしての完成度は低いかもしれませんが、熊々しさが残っていてこれはこれでとても可愛いです。

アニメ版パディントンの模写

初期パディントンの模写

藤子不二雄風パディントン


風評被害
パディントンは自分の故郷のことを

暗黒の地ペルー

と表現します。
子どもの頃は南米の知識などありませんでしたので、どれだけひどいところなんだろうと思っていました。
当初の設定ではアフリカ出身だったパディントンを、アフリカにクマはいないことを知った作者が「じゃ、クマのいる南米出身ということで」と変更したそうです。どうもペルーにあまり深い意味はなく、なんだかよく知らない遠い国を表現したいがための「暗黒の地」という表現だったのかもしれません。

とはいえクマにディスられるとはペルーもとんだとばっちりです。このフレーズに触れたペルーの子どもたちの反応が気になっていたのですが映画のプロモーションでパディントンが歓迎されたという記事を見つけて安心しました。

(2020.1.18更新)

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