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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

続・時をかける少女

石山 透 作
田中秀幸 さし絵
鶴書房盛光社 350円

続・時をかける少女
イラスト:あみあきひこ

ノベライゼーション
時をかける少女」をドラマ化した「タイム・トラベラー」は1972年1月1日からNHKで放映され、多くの子どもたちを楽しませました。
その反響を受けて同年の11月から同じ「少年ドラマシリーズ」の枠で始まった「続タイム・トラベラー」を小説化したものが本作品で、作者の石山透はその脚本家でした。テレビドラマ原作だけあって挿絵以外にも放映時のスチール写真がふんだんに載っています。
同じ「SFベストセラーズ」というシリーズで出ていながらまるまる一冊分のボリュームがある「続」の方が短編だった「時をかける少女」よりも読み応えがありました。

「続・時をかける少女」ではタイムトラベルで21世紀に向かった27世紀の3人の科学者が行方不明となってしまいます。救助が遅れれば、何も知らない過去の人間が科学者たちの持っている小型のエネルギー装置に触れてしまい地球が消滅してまうような事態を引き起こしてしまうかもしれません。
しかし過去に向かった救助隊はどうしても彼らを発見することができませんでした。

それに、今までの調査で、二〇〇一年に来ているはずの三人の科学者は、なぜか二十世紀後半に迷いこんでしまったらしいということがわかった。しかも、二十一世紀と二十世紀との間には、なにか厚い時間の壁があるらしいということもわかった。

救助隊の遭難という二次災害を避けるためにも3人の科学者が消息を絶った時代で時間の壁の影響を受けずに活動できる人間が必要でした。
タイムトラベルを可能にした薬品の開発者であるケン・ソゴルはかつて20世紀で出会い、はからずもタイムリープ能力を身につけてしまった芳山和子の力を借りることにします。


テレビドラマ
ストーリーは前作よりもSF色が強くなり、またサスペンスの度合いも大きくなっています。
和子とケンの活躍によって地球の消滅は回避されますが、行方不明となっていた3人の科学者はいずれも悲劇的な末路を辿ります。この勧善懲悪でないほろ苦さの残る展開が当時のヤングアダルト層の心に響いたのかもしれません。

テレビで放映していた「続タイム・トラベラー」は細かい点までは理解できないまでも姉の横で観ていました。未来の装置を勝手にいじったために老人たちがどんどん若返った挙句に消滅してしまうエピソードは小学2年生にとって強烈だったためかよく覚えています。

だれもいない部屋のまん中に、例のエネルギー・スクリーン装置だけがポツンと置いてあるだけだ。
「あの人たちは、どこへ行っちゃったのかしら?」
「もしかしたらあの人たちは……どんどん若返り、子どもを通り越し、赤ん坊を通り越してその向こうへ……」
和子にはケンの言う意味がよくわからなかった。
「赤ん坊を通り越した向こうって……一体、どこなの?!」

部屋の中を4体の胎児が浮遊している映像はかなり怖かったです。
これ以外にも時の狭間に迷い込み永遠にさまよい続けなければならなくなってしまった人々のエピソードにかなりの恐怖を覚えた記憶があります。

ちなみにドラマに対しては怖いということ以外に「ケン・ソゴルって変な名前」だとか「未来人の服の生地がぺらぺらで安っぽい」といったことも思っていたのですが、それを口にすると熱心に観ている姉から攻撃されそうだったので口をつぐんでいました。


ロマンス
ケンと再会しても「時をかける少女」のラストで消されてしまった和子の記憶は蘇りません。それでも人への想いは科学的な操作では決して消し切ることができないことを示す描写は随所に出てきます。

——ケン……ケン・ソゴル。……
そんな名前は記憶にない。しかし……
——今、わたしの胸にこみ上げるのは……そうよ! なつかしさ!
どうしてなのか? なぜなつかしく思うのか? 考えても、なにもわからない。リクツでは説明できない、心のずっと深いところから、まるで泉のように湧き出るなつかしさ・・・・・

和子が科学者たちの捜索に力を貸したのは、どこかにケンへの想いが残っていたからです。しかし事態が一応の解決を迎えたところで和子は再び記憶を消されてしまいました。物語は作品の冒頭と同じ目覚まし時計の音で和子が目覚める場面で終わります。

ガウンをはおって部屋から出てみると、家の中はシーンと静まり返っている。
「おかあさん、どうしたの! グズグズしていると、わたし学校おくれちゃうわ!!」
遠くから、母の声が返って来た。
「今日は、日曜よ!」
「あ、いけねぇ……」
ベッドにUターンする和子の記憶の中には、もうタイム・トラベルも、ケン・ソゴルもなくなっていた。

後にメディア化された作品と比較すると恋愛要素は薄いと思っていたのですが、好きな人の記憶を二度失う物語と考えれば、十分に切なくロマンチックな作品と言えるのかもしれません。

(2020.5.8更新)

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