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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ラモーナの物語

ベバリイ・クリアリー 作
松岡享子 訳
アラン・ティーグリーン 絵
学習研究社

ラモーナの物語
イラスト:あみあきひこ

シリーズの系譜
自分が小学校の図書室で借りた時「ゆかいなヘンリーくんシリーズ」は全部で8冊でした。シリーズにはヘンリーくんの近所に住む同い年の女の子ビーザスとその妹のラモーナをメインとした「ビーザスといたずらラモーナ」「ラモーナは豆台風」といった作品も含まれています。
後に「ゆうかんな女の子ラモーナ」が加わってシリーズは全9巻になります。「ゆうかんな女の子ラモーナ」は今回初めて読みました。

作者はその後もシリーズを書き続け日本でも「ラモーナとおとうさん」「ラモーナとおかあさん」「ラモーナ 、八歳になる」「ラモーナとあたらしい家族」「ラモーナ 、明日へ」という5作品が出版されています。
舞台と時系列こそヘンリーくんシリーズを引き継いでいるもののタイトルからわかる通り、主人公はラモーナになっています。さすがにヘンリーくんシリーズと称するには無理があるためか、日本ではこの5冊は「愛すべき女の子ラモーナの物語」という括りになっています。

ゆかいなヘンリーくんシリーズを読み返したおかげで続編の存在を知ることができ、これもなにかの縁だろうと読んでみました。


ラモーナ
ラモーナの物語 ヘンリーくんシリーズに初登場した時のラモーナは4歳でした。感受性の豊さゆえに自分の思い通りにならないことがあると泣いたりわめいたりする子で、年上なんだから大目に見てあげなさいと言われてしまうお姉さんのビーザスやヘンリーくんにとってはやっかいな存在でした。

小学生当時は自分と同じ年頃のヘンリーくんたちに同情的で、暴れん坊のラモーナは正直なところちょっと苦手なキャラクターでした。
しかし大人となった今では、小さいというだけで相手にされないことに腹を立て、その結果癇癪を起こすラモーナを理解でき、その傍若無人な振る舞いすら愛おしく思えます。

「きっと楽しいに違いない」といった素敵なアイデアがいざ実行してみると思ったほどのことではなくがっかりしたり悲しくなってしまったりする。それでもちょっとしたトラブルは思いもかけずラッキーな方に転がったり、家族の愛情などによって解決される。
子ども時代にはよくある感情の起伏。そうしたことの繰り返しであるラモーナの日々を作者は確かな観察眼で温かく見守るように描いています。


時代の変化
「がんばれヘンリーくん」が世の中に出たのは1950年。作品には古き良きアメリカを思わせる明るい雰囲気が溢れています。対してラモーナのシリーズは1977年から1999年にかけて書かれました。
50年もあれば子どもの風俗も大きく変わります。シリーズ終盤でのラモーナはヘンリーくんとよく遊んでいた頃のビーザスと同じ年齢になっていますがさすがにゆかいなヘンリーくんシリーズの感想文で書いたような、キャベツの芯をしゃぶるようなことはしていません。

ベトナム戦争などを経てアメリカも無邪気なままではいられなくなり、そうした社会情勢に多少なりとも影響されてか「ラモーナの物語」ではお父さんが失業して家計が苦しくなる世知辛い部分やお母さんが働くことによってラモーナが寂しい思いをするような面も描かれています。

必ずしも順調なことばかりではない環境の中で、それでもラモーナは健やかに育っていきます。
近所の小さな子や新しく生まれた妹のおかげでかつての自分がお姉さんやヘンリーくんをうんざりさせた気分を今度は自分が味わったりしながらです。

大人目線の読者としては小学生だったお姉さんのビーザスがニキビを気にするようになり、反抗期を迎え、ハイスクールに進学してピアスを開けるようになる成長の様子にも感慨深いものがありました。
そしてヘンリーくんはまったくと言っていいほど出てきません。中学校進学を機にそれまで毎日のように遊んでいた友達とすっかり疎遠になってしまうのはよくあることとはいえ、少し切なかったです。


今更気づいたこと
ラモーナの物語 「ラモーナ 、明日へ」で10歳の誕生日を迎えることになったラモーナは夢見る調子で自分はティーンエイジャーになるんだと語ります。

「それは、ちょっと先走りじゃないかい」と、おとうさんがいいました。
「そうよ。あんた、十歳になるんじゃない」と、ビーザスがいいました。
「でも、それって、ティーンエイジャーみたいなものでしょ」と、ラモーナはいいました。「ゼロティーンだよ。二けたの数字だもの。」
二けたというと、重みがあって、えらそうに聞こえます。
「来年は、ワンティーン(十一)で、再来年は、ツーティーン(十二)で、それからサーティーン(十三)、フォーティーン(十四)ってなるんだもの。」

このラモーナの発言で「そうか! 語尾にティーンとつくからティーンエイジャーなのか!」と今更ながらに気づきました。
中学英語レベルのことですので教わっていたのかもしれませんが、なんだか新しい発見ができたようで嬉しくなってしまいました。

日本語の十代は10歳から19歳を指す言葉です。ところが自分は十代と聞くと漠然と13歳から19歳を連想してしまいます。
ティーンエイジャーを日本語に訳すと十代になることに加え、小学校という子ども時代が12歳で終わることからそんな認識になってしまったのでしょう、たぶん。


最終巻
1999年に「ラモーナ 、明日へ」が発表されて以降、ラモーナの新しい物語は出ていません。
1916年生まれの作者は今年の3月25日に104歳でお亡くなりになりました。

10歳の誕生日のエピソードで終る「ラモーナ 、明日へ」の中で、ラモーナは「校庭ザル」というあだ名をつけたちょっと気になる男の子に言います。

ラモーナは、その後ろすがたに向かって、
「あたし、おとなになる可能性もってるんだからねーっ!」とさけびました。
「おれもだよーっ!」と、校庭ザルは、さけびかえしました。

長い時間をかけて見守ってきた成長物語の終わりにふさわしい言葉のやりとりで、好きなシーンです。

(2021.5.1更新)

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