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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

妖怪なんでも入門

水木しげる 著
小学館 昭和49年5月1日 初版発行
昭和54年3月30日 第15刷発行 450円

妖怪なんでも入門
イラスト:あみあきひこ

妖怪ブーム
「小学館の入門百科シリーズ」は「世界びっくり情報」の感想文でもちょっとだけ触れた、1970年代から90年代にかけての小学生のマニア心をくすぐったシリーズです。
1968年、水木しげる原作の「ゲゲゲの鬼太郎」がアニメ化され妖怪ブームが巻き起こりました。「妖怪なんでも入門」はその勢いを受けて入門百科シリーズの32巻目として発売された、水木しげるの絵をふんだんに使った一冊です。「オベベ沼の妖怪」という「ゲゲゲの鬼太郎」のマンガも掲載されています。

手元にある本は「記録なんでも日本一」を持っていた友人から借りたもので、発行年からすると友人の弟のものだったのかもしれません。しかし小学生の頃に学校で友達と回し読みをした記憶はあります。クラスの中でひとりやふたりは持っているような人気の本だったのでしょう。
友達との間では「うわん」が人気だったことを覚えています。

うわん
うわんは、「うわん」とほえるのが楽しくてしかたのない妖怪だ。
人通りがなく、人の住んでいない古やしきのあたりを人が通ると、なんの前ぶれもなく、それこそいきなり「うわん」とひと声、気味の悪い声をだして、人を全身、ひや汗びっしょりにさせる。

このシュールなギャグっぽいところがなぜか男子小学生たちの琴線に触れたようです。


水木しげるの関与
妖怪なんでも入門 当時子どもたちに人気だった怪獣大百科的な本や雑誌の記事は今ほど版権元に管理されておらず、ライターが自由に書いていた側面があります。「ツインテールはエビの味」などはその一例でしょう。

「妖怪なんでも入門」も「水木しげる/著」となってはいるものの、本人がどこまで制作に関わっていたのかはわかりません。
「オベベ沼の妖怪」は少年マガジンに掲載されたものですし、他のイラストも描き下ろしではないと思われます。「うわん」を始めとする各妖怪たちの記事はライターが担当し、水木しげる自身はイラストの許諾だけで積極的な監修は行っていなかったとしても不思議はありません。

ただ本の最初の方には妖怪とはなんなのかといったことを解説するようなパートがあり、そこは編集部が水木に取材してまとめているのかもしれません。例えば「海にすむ妖怪」の項は次の一文で始まっています。

また海とか川の中にも妖怪はいる。しかし、人が大勢行って、人の小便が海水より多いようなところにはいないから、これも人のいないところじゃないといけない。

こうした言い回しはいかにも水木しげるという感じがします。


あまり怖くなかった
妖怪を扱った本でありながら怖かった記憶はありません。
水木しげるの描く妖怪にはユーモラスな魅力があることが一番の理由かと思います。同時にたとえ人間に危害を加えるような妖怪でもゲゲゲの鬼太郎がやっつけてくれるというテレビアニメに裏付けられた安心感のようなものも影響していたかもしれません。

同じタイプの本で「怖さ」という点で人気があったのが「日本妖怪図鑑」でした。マンガチックではないリアルな妖怪の姿や襲われる人間の苦悶の表情は恐ろしかったです。
石原豪人の描くイラストにはエロスの香りがあり、男子女子に関わらずその匂いを敏感に嗅ぎ取っていたような気もします。


小学館入門百科シリーズ
「妖怪なんでも入門」を貸してくれた友人は同じ入門百科シリーズの「つり入門」「サイクリング入門」「クイズパズル頭の特訓」「きみは名投手」も貸してくれました。
どの本もイラスト豊富な小学生向けではありながら、書かれている内容は本格的で真面目なものです。

野球はもちろん釣りやサイクリングは当時の男子に高い人気があり、世相を反映したラインナップだったことがよくわかります。
ところで「クイズパズル頭の特訓」にはマッチ棒を使った、一本だけ動かして違う形を作りなさい的な問題がいくつも出てきます。自分が幼かった頃には100円ライターもまだなく、火をつけるものといえばマッチでした。ガスコンロの点火もマッチです。
IH調理器が当たり前の今の子どもにはマッチ棒というものがピンとこないかもしれません。

1990年代まで続いた入門百科シリーズは200巻を超えています。扱われたテーマは怪獣や野球のような男子人気の高いものばかりでなく「すてきなおかし作り」「しあわせ星うらない」といった女の子受けの良さそうなミニレディー百科というカテゴリーも充実していました。
タイトルを眺めているだけで、その時々の子どもたちがどんなことに興味をもっていたのかが想像できて楽しいです。

もし今新しい入門百科が出るとしたら「ユーチューバー入門」とか、ありそうな気がします。

(2022.1.20更新)

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