手元にある本は「記録なんでも日本一」を持っていた友人から借りたもので、発行年からすると友人の弟のものだったのかもしれません。しかし小学生の頃に学校で友達と回し読みをした記憶はあります。クラスの中でひとりやふたりは持っているような人気の本だったのでしょう。
友達との間では「うわん」が人気だったことを覚えています。
うわん
うわんは、「うわん」とほえるのが楽しくてしかたのない妖怪だ。
人通りがなく、人の住んでいない古やしきのあたりを人が通ると、なんの前ぶれもなく、それこそいきなり「うわん」とひと声、気味の悪い声をだして、人を全身、ひや汗びっしょりにさせる。
このシュールなギャグっぽいところがなぜか男子小学生たちの琴線に触れたようです。
「妖怪なんでも入門」も「水木しげる/著」となってはいるものの、本人がどこまで制作に関わっていたのかはわかりません。
「オベベ沼の妖怪」は少年マガジンに掲載されたものですし、他のイラストも描き下ろしではないと思われます。「うわん」を始めとする各妖怪たちの記事はライターが担当し、水木しげる自身はイラストの許諾だけで積極的な監修は行っていなかったとしても不思議はありません。
ただ本の最初の方には妖怪とはなんなのかといったことを解説するようなパートがあり、そこは編集部が水木に取材してまとめているのかもしれません。例えば「海にすむ妖怪」の項は次の一文で始まっています。
また海とか川の中にも妖怪はいる。しかし、人が大勢行って、人の小便が海水より多いようなところにはいないから、これも人のいないところじゃないといけない。
こうした言い回しはいかにも水木しげるという感じがします。
同じタイプの本で「怖さ」という点で人気があったのが「日本妖怪図鑑」でした。マンガチックではないリアルな妖怪の姿や襲われる人間の苦悶の表情は恐ろしかったです。
石原豪人の描くイラストにはエロスの香りがあり、男子女子に関わらずその匂いを敏感に嗅ぎ取っていたような気もします。
野球はもちろん釣りやサイクリングは当時の男子に高い人気があり、世相を反映したラインナップだったことがよくわかります。
ところで「クイズパズル頭の特訓」にはマッチ棒を使った、一本だけ動かして違う形を作りなさい的な問題がいくつも出てきます。自分が幼かった頃には100円ライターもまだなく、火をつけるものといえばマッチでした。ガスコンロの点火もマッチです。
IH調理器が当たり前の今の子どもにはマッチ棒というものがピンとこないかもしれません。
1990年代まで続いた入門百科シリーズは200巻を超えています。扱われたテーマは怪獣や野球のような男子人気の高いものばかりでなく「すてきなおかし作り」「しあわせ星うらない」といった女の子受けの良さそうなミニレディー百科というカテゴリーも充実していました。
タイトルを眺めているだけで、その時々の子どもたちがどんなことに興味をもっていたのかが想像できて楽しいです。
もし今新しい入門百科が出るとしたら「ユーチューバー入門」とか、ありそうな気がします。