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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

のねずみダニーのぼうけん

ソーントン・バージェス/作
平賀悦子/訳
富永秀夫/絵
金の星社 1972年3月 490円

のねずみダニーのぼうけん
イラスト:浅渕紫歩

命を狙われる日々
当サイトではお馴染み、バージェス・アニマル・ブックスの中の一冊です。主人公のダニーはこのシリーズにしては珍しくおじさんっぽくない、陽気な若者といったキャラクターです。
とはいえなにしろネズミなので、常に捕食される危険と背中合わせの生活を送っています。なんとかしてダニーを食べてやろうとするばあさんぎつねとレッドのキツネコンビから逃れることに成功した時も、ちょっとした油断から結局は空から襲いかかってきたフクロウに捕まってしまいました。がっしりと爪でつかまれ、空高く舞い上がられてはダニーになす術はありません。

ふくろうは、いえについたら、なにをするでしょうか。それをかんがえると、ダニーは、いたいどころではありませんでした。ふくろうは、いえにかえれば、すぐに、ダニーを食べてしまうでしょう。ほねも、なにもかも、みんな、たべられてしまうでしょう。

命がけのハードな日々。しかしダニーにしてみれば狙われるのは当たり前のことなのか、敵を上手くやり過ごすことに喜びを見出したりしていて悲壮感はありません。天敵のことよりも、他の種類のネズミに比べて自分の尻尾が短くて格好悪いことの方が切実な悩みだったりします。


ピーターうさぎ
絶体絶命のピンチにもダニーは諦めませんでした。空中で必死に暴れることでなんとかフクロウの鋭い爪から逃れ、落ちた先でたまたま通りかかったピーターうさぎに助けられます。

ピーターは、うちから とおくへきてしまったダニーを、いばらのやぶに、すまわせてくれました。そのうえ、ダニーが、けがで うごけなかったとき、ピーターは、ダニーのせわをしてくれました。

そんな親切なピーターでしたが、危険だからやめた方がいいというダニーの忠告に耳を貸すことなく、噂に聞いた果物畑へと出かけてしまいました。お目当は桃の若木です。

その、おいしいことといったらありません。ピーターは、ももの木をまわりながら、みきのかわをかじって、みきを はだかにしていきました。(中略)
ピーターうさぎは、なにもしらずに、とてもわるいことをしていたのです。ピーターが、みきのかわを みんなたべてしまったら、わかいももの木は、かれてしまうのでした。

ここはウサギの生態と、そこに悪意はなくとも人間にとっては十分な害になってしまうことが説明された素晴らしいシーンだと思いました。動物と人間それぞれの言い分が平等に扱われている感じがします。

そしてアニマル・ブックスに登場する動物たちは多くの場合欲望(主に食欲)に負けてピンチに陥ります。
案の定ピーターも罠にかかってしまい、手負いの状態でダニーが心配して待ついばらのやぶを目指すはめになります。畑を荒らされて怒るブラウンさんの息子や犬のバウザーからも追跡されるピーターの運命や如何に!


ノネズミは害獣
題名は「のねずみダニーのぼうけん」であってもピーターうさぎのパートもそこそこのボリュームがあります。全体としてはノネズミとウサギという異なる種の間に生まれる熱い友情物語という印象が強く残りました。
こうした展開は昔も今も大好きなのに、はっきり覚えていたのが表紙の絵ぐらいで内容に関しての記憶はほとんどなかったというのも不思議なものです。

アニマル・ブックス・シリーズは巻末に「お子様の読書指導のために」とした保護者に向けた専門家の動物解説が載っています。
この巻ではダニーが北アメリカに広く分布しているメドウマウスという種類のネズミであり、農業に甚大な被害を及ぼしている厄介者であることが延々と紹介されています。
ノネズミが活躍する本なので、さすがに害獣扱いのまま終わるのはまずいと思ったのかもしれません。解説の最後が

さて、私はメドウマウスの、害のことばかりお話しましたが、実はこの動物は、頭がまるく、尾が短く、耳は小さいので、普通は頭の毛の中にうずまっていて外からは見えない、たいへん可愛らしい小さい動物なのです。

と、取ってつけたようなフォローで終わる感じが面白かったです。
この解説を書いたのは古賀忠道。上野動物公園の初代園長を務められた方のようです。

(2018.6.3更新)

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