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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ハルとロジャーの冒険大作戦 1

魔境アマゾン

ウイラード・プライス 著
久米みのる 訳
中山正美 さし絵
集英社 昭和48年10月 初版 450円

魔境アマゾン
イラスト:浅渕紫歩

全プレという言葉はなかった
ハルとロジャーの冒険大作戦は1973年の秋から毎月1冊のペースで刊行された全12巻のシリーズです。1巻と2巻は同時配本だったような記憶もあるのですが定かではありません。
発行元の集英社は結構力を入れていたのではないでしょうか。このシリーズがスタートすることを知ったのは少年ジャンプに出ていた広告だったと思います。月刊少年ジャンプには「魔境アマゾン」のコミカライズが掲載されたこともありました。
また応募者全員に第4巻「ケニアの人食いライオン」をテーマにした特大ポスターが当たるというキャンペーンもやっていました。B4くらいの封筒で郵送されてきたためにしっかり折り目がついていてがっかりしたものの絵はカッコ良かったので、しばらくは部屋で巨大ライオンが睨みを利かせることになりました。


血湧き肉躍る冒険物語
世界中の珍しい野生動物を生け捕りにして動物園やサーカスに売る動物コレクターのジョン・ハント。その息子で18歳になるハルと13歳のロジャーが世界を股にかけて冒険するシリーズは動物好きだった自分にとってかなり魅力的でした。
「魔境アマゾン」ではティグレ(ジャガーの現地呼び)やアナコンダといった野生動物以外にも、首刈り族や悪徳動物商人たちがハルとロジャーの命を脅かす存在として迫ってきます。有能な現地スタッフが命を落とすシーンもあり、最後までハラハラする展開が続きます。
シリーズの1冊目がアメリカで出版されたのは1949年なので作中にはオオアリクイと素手で格闘して捕らえるというような、さすがに無理だろうと思えるシーンもちょくちょく出てきます。それでもチスイコウモリの吸血システムは血を吸うのではなく傷口から舐めとるのだという、後年テレビのドキュメンタリー映像で見たものと同じ説明がなされたりしていて、全体的には動物に関する描写はきちんとしています。
作者はアマゾンを始めとする世界各地を巡ってきた冒険家なので、実際の経験が十分に反映されているのでしょう。


植え付けられた知識
このシリーズからは動物やサバイバルに関する様々な情報を吸収しました。しかしその後の人生に於いて役に立ったものは何一つとしてありません。
それでも子どもの頃に覚えたことはなかなか忘れないものです。数十年経過した現在も脳容量の一部を占めている「魔境アマゾン」から得られた知識は次の通りです。

◆首刈り族のある部族は人間の頭で干し首を作る。頭蓋骨を取り外した首に熱した砂を詰める作業を何度も繰り返すことによって、干し首はオレンジ程度の大きさになる。

◆インディアンは傷口を縫い合わせるのにアリを使う。

つまり、アリに傷口をかみ合わさせ、それから鋭い刃物でアリの首をちょんぎるのだ。すなわち、アゴの部分を、傷がなおるまでくっつけているというわけだ。

◆ボアというヘビの正式名称はボアコンストリクター。

◆バシリスクというトカゲは水面を歩く。


ワシントン条約
ハルたちは罠や状況によってはオオアリクイの時のように肉弾戦で動物を生け捕りにしていきます。
なぜ麻酔銃を使わないのか不思議に思って調べてみた所、麻酔銃が発明されたのは1950年、第二次世界大戦よりも後のことだと知って驚きました。1949年に発表されたこの作品の中ではまだ麻酔銃は存在していなかったのです。

麻酔銃はなくても護身用として強力な銃は持っているので、人間の身に危険が迫れば貴重な野生動物であっても容赦なく殺します。ワシントン条約の発効より四半世紀も前の時代のお話なので、動物の扱いが現在の感覚からするとかなり雑です。

◆バクの赤ちゃんを生け捕りにし、怒って攻撃してきた親バクを射殺します。

◆捕らえたチスイコウモリのエサ用にカピバラを射殺します。

◆カイマンワニを捕らえようとして失敗。ナイフで傷つけられたワニはピラニアの餌食になります。

◆ロジャーがオオアリクイと格闘している時、仲間を助けにきたもう一頭のオオアリクイを現地スタッフが斬殺します。

◆ジャガーの生け捕りに失敗、反撃されたので槍で刺し殺します。

◆捕獲したアナコンダのエサ用にマナティーの子どもを射殺します。

殺してしまった動物はあとでスタッフがおいしくいただいたり、無駄な殺生をしてしまったとハルやロジャーが反省する様子が描かれていたりはするものの、やはり時代を感じてしまいました。


大人の事情
少年ジャンプに掲載されたコミカライズでは兄弟のお父さんが日本人という設定で、ハルに「お前には大和魂がある」と説くようなシーンがありました。主人公の名前がハルという日本人っぽくもある名前のため、ハーフということにした方が読者の受けがいいだろうという判断だったのかもしれません。
既に原作を読んでいたので「なんじゃ、こりゃ」と思うのと同時に、出版物といえども必ずしも正確な情報がのっている訳でもないのだなと少しばかり大人になることができました。

(2017.12.21更新)

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