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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

トラゴロウのあとがき

トラゴロウのあとがき
イラスト:林檎 椿

ひるね姫
「目をさませトラゴロウ」を読み返してみたのは去年の4月のことでした。 その数日前に「ひるね姫」というアニメ映画を観ていたので「この世界観の一致は!」などと思ってしまいました。実際には夢の世界と現実の世界が交錯する以外これといった共通点もないので、その時の私の一瞬の盛り上がりなどはどうでもいいことです。
映画は面白かったです。


文字の大きさ
理論社の「目をさませトラゴロウ」は「童話プレゼント版」「名作の愛蔵版」「新・名作の愛蔵版」という順番で新しい版が刊行されてきました。図書館で借りてきて見比べてみると年代が進むにつれて活字が大きくなっていくのが面白かったです。 昔は新聞の文字も今よりかなり小さかったことも思い出しました。


じぶんでかんがえたこたえ
さて「目をさませトラゴロウ」の「童話プレゼント版」のみに理論社の創業者であり、多くの児童文学作家を世に出した小宮山量平の「おかあさんたちへ∗︎小さな解説」と題されたあとがきが載っています。
そこに書かれているのは子どもたちが疑問にぶつかった時のこと。

――へんだな、とおもう。わからないなあ。と、くびをひねる。
でも、こたえはすぐにでてくる。
まず、おかあさんが、おしえてくれる。おとうさんも、おしえてくれる。
テレビも、おしえてくれる。ラジオも、こたえてくれる。
べんりな ほんもある。
ああ、まったく べんりだ。
ちょっと、へんなことにきがつくと、すぐにこたえがでてくる。かんがえる時間は、みじかい。みんな、しんせつで、なにからなにまで、ほんとうにべんりにできている。

小宮山は「目をさませトラゴロウ」という作品には誰に聞いても簡単には答えの出てこない変なことがたくさん書かれているので子どもたちはとにかく自分で考え始めるだろうと続けます。

じぶんでかんがえたこたえをみつけたこどもたちは、ほんとうに、きらりきらり目をかがやかせてるだろう。それから、にっこりわらうだろう。

ネットを通じて大した苦労もなく情報が得られることに対してありがたいと思う反面、何か大切なものを退化させてしまうのではないかという漠然とした不安もあります。
しかしそんな大人も、半世紀前には似たような心配をされていたことがこのあとがきからわかります。情報入手の手段に苦労があろうがなかろうが、自分で考えるということを放棄しない限り人間は大丈夫なんじゃないでしょうか。

まぁ「世の中なるようにしかならない」と考えるタイプの自分が立派な大人に育ったのかどうかは別問題、ということで。

(2018.2.17更新)

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