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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ももいろのきりん

中川李枝子 さく
中川宗弥 え
福音館書店 一九六五年七月一日初版発行
一九七〇年五月一日第十二刷発行 530円

ももいろのきりん
イラスト:林檎 椿

るるこちゃんのキリン
おかあさんから大きなももいろの紙をもらったるるこは、のりとはさみとクレヨンで自分が乗れるくらいのキリンを作ることにしました。

るるこは、まず、とてもながいくびをつくりました。
「あたしのきりんは、キリカっていうの。キリカは、せかい一くびがながいのよ。だって、きりんはくびがながいほど、りっぱなんですもの。」

クレヨンで大きな目と口を描くと驚いたことにキリカはおしゃべりを始め、るるこを乗せて庭を走り回ってくれました。
遊び疲れて戻ってきた子供部屋は天井が低くて頭がつっかえてしまうため,長い首を窓から外に出して休むことにします。ところが夜の間に降った雨のせいでキリカの首はくたくたにしおれてしまい、きれいなももいろもすっかりハゲ落ちてしまいました。


紙飛行機
24個もの洗濯バサミでぶら下げて、お日様の力で乾かしてあげるとキリカの首は雨に濡れる前よりも固くて頑丈になりました。夜露に濡れてぐにゃぐにゃになってしまった紙飛行機を乾かすとカチカチに固くなったという経験があったため、この場面には深く共感したことをよく覚えています。
また、キリカの足は短いけれど力は強くて、地面を蹴るとスコップで掘ったような大きい穴が開くという描写がお気に入りだったことも思い出しました。

首は強くまっすぐになっても、色はハゲたままです。元通りの色にするため、るることキリカは遠くに見えるクレヨンの木を目指しました。その木に実っているバナナみたいに大きい、色とりどりのクレヨンの中からももいろを選んでキリカの首を塗ればいいのです。
しかし木のそばにはオレンジ色の意地悪なクマがいて、クレヨンを独り占めしていました。レモン色のサルや空色のウサギといったカラフルな動物たちも、少し色がハゲてしまった部分を塗ることができずに困っています。

「オレンジぐまは、なんてわるいやつだ。もしぼくに、ももいろのクレヨンをとらせなかったら、やっつけてやろう。」

キリカはその強い首でクマを遠くへ吹っ飛ばし、みんなは好きなだけクレヨンを使えるようになりました。


るるこの記憶
「ももいろのきりん」という本は好きでも、主人公のるるこのことはあまり好きではありませんでした。
ひとつには挿絵のるるこがあまり可愛くなかったからです。キリカにまたがっているポーズもふてぶてしい女の子のように見えていました。
もうひとつの原因は彼女の振る舞いにありました。クレヨンの木を取り戻してみんなでお祝いをしている最中に、るることキリカは対立してしまいます。るるこがもうお家に帰りたくなってきたのに、キリカはまだまだ他の動物たちと遊んでいたかったからです。かんしゃくを起こしたるるこはキリカのことをめちゃくちゃに叩きながら泣き叫びます。

「こまったようー、あたしひとりじゃかえれないようー、うおーっ、うおーっ。キリカがこんなとおくへつれてきちゃったようーっ、うおーっ、うおーっ。」

大人になってから読むと子どもらしく、愛らしくさえ思えるシーンも、るること同じような年齢だった当時は自分の思い通りにならないからといって「うおーっ」と泣き叫ぶのはいかがなものだろうと批判的な目で見ていました。幼児といえども自分をもう少しコントロールするべきだと思っていたのでしょう。
結局キリカが折れ、動物たちがなだめすかすことでやっと落ち着きを取り戻すのも、なんだか周囲に迷惑をかけているようでイヤでした。

記憶の中のるるこはちょっと乱暴で意地悪な性格でした。しかし読み返してみると全然そんなことはなく、年相応のごく普通の女の子でした。先にあげたようなマイナスイメージにオレンジぐまの意地悪な奴という記憶が混じってしまったのかもしれません。るるこちゃん、ごめんなさい。

るるこは帰る時に動物たちから大きな画用紙をプレゼントされます。それは描いたものがすぐに本物になる魔法の画用紙でした。家に着いたるるこはさっそくクレヨンでキリカの頭がつっかえたりしない大きなおうちを描きました。
自分が作ったキリンが動き出して友達になってくれるのと同じくらいに、この魔法の画用紙は羨ましかったです。


サルに見えるクマ
クレヨンの木を取り戻した動物達が喜び踊っているところに一頭の色あせたクマが現れて自分にもクレヨンを分けてくれないかと尋ねます。
意地悪がたたって放り出されてしまったクマも最後には救われるのがこのお話の優しいところです。るるこの手できれいなオレンジ色に塗ってもらったクマは宙返りをしながらみんなのダンスの輪に加わります。

ところでこの場面の挿絵のクマが昔からサル(ヒヒ系)に見えて仕方がありませんでした。今回改めてじっくりと見てみたのですが、やはりクマというよりはサル(ヒヒ系)の印象の方が強かったです。幼少期の刷り込みもあるので、もうクマとは認識できなくなっているようです。

挿絵の中川宗弥は作者中川李枝子の旦那さんです。そして中川李枝子は「ぐりとぐら」「いやいやえん」「そらいろのたね」といったよく知られている本の作者でもあります。このあたりのことは今回初めて知りました。
ロングセラーである「ももいろのきりん」は今でも本屋さんでお求めいただけます。

(2018.4.13更新)

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