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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

持っていない本を読んでみる

ロビンソン・クルーソー

デフォー 作
海保眞夫 訳
ウォルター・パジェット 挿画
岩波書店 2004年

ロビンソン・クルーソー
イラスト:蜥蜴男

元祖
数ある無人島漂流もののルーツといえばこの作品でしょう。おおよその内容は知っていても読んだことはありませんでした。「スイスのロビンソン」まで読んでしまった以上こちらも読まないわけにはいかないだろうと、勢いで借りてしまいました。
1719年に出版された古典を大人向けの翻訳で読むのはしんどそうでしたので、選んだのは「中学以上」向きと書かれている岩波少年文庫版です。

船の遭難でカリブ海近辺の無人島に漂着したロビンソン・クルーソーが30年近い年月の後、無事母国イギリスに帰還するお話です。
それまで読んできた漂流記との最大の違いは主人公が独りだということです。海岸に人の足跡を見つけ、島に人食い人種と呼ばれる蛮人がやってくることもあると気づくのが15年目。蛮人同士の争いから助け出した男をフライデイと名付け従者にし、ようやく話し相手ができたのが25年目のことでした。
生き抜いていくことは孤独との戦いでもあり、元々は信仰心の薄かったロビンソンが神に祈りを捧げるようになっていったのもうなずけます。
また、せっかく見つけたサトウキビが野生のため食用に向かなかったり、麦を栽培しようとするも始めのうちは失敗してしまう描写などにはリアリティがあり、少年向けの作品とは一味違う感じがしました。


イヌとネコとオウム
フライデイと出会う前のロビンソンを癒したのは共に漂着した1匹のイヌと数匹のネコ、そして島で捕まえて言葉を覚えさせたオウムでした。
寂しさを紛らすには最高のお供ではありますが、作品中この動物たちとの交流はあまり描かれていません。自分が同じ境遇であったらイヌやネコにどっぷり依存したであろうことは容易に想像できます。そうならなかったのは、イヌにせよネコにせよペットというよりは人の役に立つ家畜としての側面が強い時代だったからのように思います。

その後、ネコが増えてひどく悩まされるようになり、けっきょく野生の獣のように殺して、できるかぎり家に近づけないようにせざるをえなかった。

現代の人が同じテーマで小説を書いた場合はこんな扱いにはならないかと。「赤毛のアン」シリーズの3作目「アンの愛情」の中でネコを殺そうとする場面があったことなども思い出しました。昔と今ではもののとらえ方がいろいろと違っていて面白いです。


オオカミとクマ
漂着した島にはロビンソンに襲いかかってくるような獰猛な動物はいませんでした。一番危険だったのが人間です。しかし物語を通じて恐ろしい野獣が一切出て来ないというわけでもありません。

無事に帰国したロビンソンは、財産処理などのために一度ポルトガルを訪れ、ここから再度イギリスに戻る際には陸路を選択しまた。20人ほどの隊を組んでピレネー山脈を越えるルートで、この時にオオカミやクマと遭遇します。特にオオカミの襲撃はすさまじいものでした。

ともかくオオカミが、われわれを獲物としてねらいを定め、まもなくおそってくることはまちがいない。三百匹はいるであろう。

オオカミは群れを作って狩をする動物です。しかし群れの平均は3〜11頭の間で、記録上の最多頭数でも42頭だそうです。
300頭のオオカミというスペクタクルなシーンを想像して思わず笑ってしまいました。狭い地域にこれだけの密度でオオカミがいればどう考えてもエサは不足するはず。人間だろうとなんだろうと襲わずにはいられないでしょう。
ちなみにロビンソンたち一行は60頭以上のオオカミを倒し、このピンチを切り抜けました。


後日譚
遭難前に投資していたブラジルの農園が成功していたこともあり、裕福となったロビンソンは結婚もして二男一女をもうけます。普通の人間ならもう二度と旅に出たいとは思わないでしょう。
ところがロビンソンの中にある冒険への憧れは消えることがありませんでした。物語の終わりでは子どもたちが一人前になってからはいろいろなところへ足を運んだことがほのめかされ、次の一文で終わります。

しかしこれらのことは、このあと十年ほどのあいだにわたしが経験したあらたな冒険での出来事とともに、またお話する機会があればと思っている。

懲りない人だなぁという感想と共に頭に浮かんできたのは映画のインディ・ジョーンズのシリーズでした。

巻末の解説を読んで驚いたのは今回読んだものは「ロビンソン・クルーソー」の第一部であるということです。

『ロビンソン・クルーソー』には、じつはさらに、アフリカからインド、中国にいたる二度目の冒険を記した第二部と、二度にわたるこうした冒険についてクルーソー自身が感想を述べるという設定の第三部が存在するそうです。

全然知りませんでした。

(2019.8.27更新)

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