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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

りゅうのめのなみだ

ぶん・はまだひろすけ
え・いわさきちひろ
偕成社 昭和40年11月15日発行 定価290円

りゅうのめのなみだ
イラスト:林檎 椿

長く愛されている絵本
「ひろすけ絵本」と銘打たれた浜田廣介作の絵本シリーズ全10巻の中の1巻です。1925年(大正14年)に書かれたお話を作者自身が絵本用に短くまとめています。手元にある本は発行年月日からして、たぶん4つ上の姉のおさがりだと思います。
ひろすけ絵本はどうやらシリーズとしては絶版のようなのですがこの本と「ないたあかおに」の2冊は今でも本屋さんで買うことのできる超ロングセラー。現在のお値段は税込み1,080円です。


悲しいお話

昔の中華風の国。子どもたちはみんな龍を恐れていました。悪いことをすると龍に食べられてしまうと言い聞かされていたからです。
ところがひとりだけ怖がらない子どもがいました。それどころかみんなから恐れられ、避けられている龍がかわいそうだと言います。
子どもは山の奥に住む龍に会いに行き、自分の誕生日のお祝いに招待したいと告げます。 突然の申し出に面喰らう龍。

「いっても いいかい。 この おれが。」
「いいとも、ぼくは おまえさんを にくみは しない。いじめは しない。もしも だれかが、かかって きたら、いつだって、かばって あげる。」

それまで人間から一度たりともやさしい言葉をかけてもらったことのなかった龍は感激して涙を流し、それが大きな川になります。
おぼれないように背中に乗せた子どもに龍は言います。

「なんと うれしい。こんな うれしいことは ない。わたしは、このまま ふねになろう。ふねに なって、やさしい こどもを たくさん たくさん のせて やろう。 そう やって、この よのなかを、あたらしい よい よのなかに してやろう。」

子どもを村に送り届ける頃には、龍の姿は黒くて立派な大きい船に変わっていました。

読み返してみるとそうでもないのですが、幼い頃は悲しい本という印象を持っていました。 せっかく仲良くなったのに、お誕生日会のごちそうを食べたり、他の子どもたちとも遊んだりする前に船になってしまった龍がかわいそうだったからです。
作者はあとがきに

清純な子どもの愛から、世の中の子どものためになろうという、大きな竜のギセイの愛が生まれました。

と書いています。「ギセイの愛」の美しさは幼稚園児には伝わらなかったかもしれません。


絵にまつわるあれこれ
絵本なので、絵の影響力が強いのは当然です。字が読めない頃だったのでなおさらでしょう。
文章では南の方の国とだけしか書かれていないのに、昔の中国を舞台にしたお話だと思っていたのは登場人物の髪型や服装が中華風に描かれていたからです。
悲しい本という印象を持ったのは子どもの表情がどれも寂しげに見えたこともあると思います。そういえばいわさきちひろが描く子どもの絵で満面の笑みというのは見たことがない気がします。
龍が船に変わっていく過程で鼻から吐く息が煙に変わっていくという描写があり、絵にも描かれていますが、好きではありませんでした。煙であろうとなんであろうと鼻から何かを出している様はかっこ悪いと思っていたからです。

2005年に集英社から出た「りゅうの目のなみだ」は絵が無国籍風になっていて、お話の印象もまた違って感じられるという情報を得たので、そちらも読んでみました。絵を担当しているのは植田真です。
植田真の描く世界は自分にはヨーロッパ風に感じられ、そのためか比較的今に近い時代のお話になっているような印象を受けました。
集英社版は文章もひろすけ絵本版よりボリュームがありました。どうやら最初に発表されたものが使われているようです。テキスト量が増えている分、こちらのバージョンの方が理由もないのに龍を嫌い、恐れている人々の様子がよくわかります。
全体から受ける静かな物語というイメージは絵が異なり、文章量が増えてもあまり変わりませんでした。ただ集英社版の一番最後のページには、船になった龍の上でたくさんの子どもたちが遊んでいる様子が描かれていて、ちょっと救われた気分になりました。


※今回から林檎椿さんにもイラストを提供していただいています。林檎椿さんについてはこちらをご覧ください。

(2017.6.1更新)

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