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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

マーシャとくま

エフゲーニ・M・ラチョフ え
うちだりさこ やく
福音館書店 1963年5月1日発行 1968年6月15日 第10刷 280円

マーシャとくま
イラスト:林檎 椿

記憶違い
森で迷った女の子がクマの家に入ってしまい、テーブルに出ていた三つのスープのうち、一番小さい器に入っていたものが丁度良い熱さだったので飲んでしまうとかそういった話だったよなと思って読み返してみました。
全然違いました。
表紙を見た時に「『マーシャとくま』だ!懐かしい!」と思ったというのにこの体たらくです。「そうだ、こんな内容だった!」とすぐに思い出せたのがせめてもの救いでしょうか。
「3びきのくま」というお話と勘違いしていました。そちらは元々はイギリスで発表されたお話で、日本では文豪トルストイが翻案したものが広く知られています。「3びきのくま」の絵本はいろいろ出版されているので「マーシャとくま」より馴染みがあるという方のほうが多いかもしれません。


おまんじゅう

さて「マーシャとくま」は女の子がクマの家に迷い込んでしまうという「3びきのくま」と同じような展開で始まります。
決定的に違うのはマーシャがそこで捕まってしまうということ。

「これは ありがたい。もう にがさんぞ。ここに ずっと すんでもらおう。ペチカをたいたり、おかゆを にたり、わしに おかゆを たべさせたりしてもらおう。」
マーシャは かなしくなって なきました。 でも しかたがありません。くまの こやで くらすことにしました。

ロシアのお話なのでここで言う「おかゆ」は「カーシャ」と呼ばれるものかと思います。挽き割り小麦を牛乳で煮てバターと砂糖で味付けしたものが一般的なものだとか。「お粥」という言葉から白米と梅干しで出来たものを連想してしまう日本人の中には「カーシャ」の甘さに堪えられないという方もいるそうです。
また、マーシャがクマの家から脱出するための重要な小道具として「おまんじゅう」が出てきます。絵では薄茶色のちょっと平たいレモンのような形に描かれています。子どもにもわかりやすいように「ピロシキ」を「おまんじゅう」と訳したのかもしれません。そういえば中華まんやカレーパンは広く浸透していますが、似たようなものであるピロシキの知名度は今ひとつ低いですね。


憎めないクマ
頭のいいマーシャはクマをうまく騙して無事おじいさんとおばあさんの元に帰ります。
やっていることは監禁と強制労働なので十分ひどいのですが、幼児の目からするとマーシャは家から無理やり連れ去られたわけでもなく、叩かれて痛い目に合っている様子もないのでクマがそれほどの悪役には思えませんでした。仲良くなれたらいいのにくらいの感じだったような記憶があります。
マーシャが割と冷静で頭の切れる女の子なので余計にちょっと抜けたところのあるクマに同情的だったのかもしれません。

この本には帯がついていて、「必読図書」「3才~小学校中級むき」などとある他に「ソビエトの絵本」とも書かれていて時代を感じさせます。
また帯では作者のエフゲーニ・M・ラチョフが写真付きで紹介されています。ラチョフは絵の作者であり、文章については訳者の内田莉莎子しか載っていなかったので調べてみたところM・プラートなる方の再話ということらしいです。
この絵本もロングセラー、現在のお値段は1,100円+消費税です。


3Dアニメ
マーシャはおじいさんとおばあさんと暮らしていて、両親は出てきません。民話が元ですので、特に深い意味はないのでしょうが、日本の昔話も保護者は祖父母というものが多い気がします。以前、口承文芸学者の小澤俊夫が、昔話は隔世遺伝するものだと語っていたのを聞いたことがあります。祖父母が仕事で忙しい両親に代わって孫に語り継ぐからということでした。そうしたことも関係しているのかもしれません。
それはそうと「マーシャとくま」で検索をするとロシアのテレビアニメシリーズが上位に出てきます。何本か観てみましたが、お人好しのクマがお転婆なマーシャちゃんに翻弄されるという、絵本とは立場が逆になったような内容で、可愛くて面白かったです。

(2017.6.23更新)

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