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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

トム=ソーヤーの冒険

マーク=トウェーン 作
亀山龍樹 訳
高橋清 絵
講談社 昭和47年7月12日 発行
昭和48年7月29日 第5刷発行 350円

トム=ソーヤーの冒険
イラスト:林檎 椿

ふくろうの本
ふくろうマークが目印の少年少女講談社文庫の一冊です。このシリーズは「やすい! おもしろい! わかりやすい! ためになる!」がキャッチコピーで、三つのジャンルを色で分けていました。
緑の背表紙は『伝記と歴史』ジャンルで「野口英世」や「エジソン」、青い背表紙は『科学・記録となぞなぞ』ジャンルで「シートンの動物記」「ゆうれい船のなぞとふしぎ」、『名作と物語』と名付けられた赤い背表紙には「たのしいムーミン一家」「坊ちゃん」などがラインナップされていました。
「トム=ソーヤーの冒険」はもちろん赤い背表紙で、カバーには麦わら帽子をかぶった、いかにもアメリカンといった風情のトムが描かれています。
親と一緒に本屋さんに行って買ってもらうという形から自分ひとりで買いに行くようになった、小学校中学年の頃に入手したものと思われます。有名な作品でしたし、童話がちょっと子供っぽく思えてきた年頃の自分が手を伸ばすにはちょうどよい感じだったのかもしれません。ただ、内容はあまり覚えていませんでした。


トムとは友達になれない
南北戦争以前の、まだ奴隷制度のあるアメリカ・ミシシッピ川流域。ここで暮らす少年トムが仲間たちと家出をして無人島で暮らしたり、宝探しをしたりする冒険物語。特に悪人のインジャン=ジョーがストーリーに絡むようになってからの展開は読み返してみても面白かったです。1980年にアニメ化され、何度も再放送されているので読んだことはないけれど内容は知っているという方も多いのではないでしょうか。

本の印象が薄かったのは、たぶんトムやその親友のハックルベリ=フィンに共感できる部分が少なかったからではないかと思っています。
トムはいたずら好きで、学校をさぼることもあります。身なりのいい見知らぬ少年にイラついてケンカをしかけたりもします。ハックは浮浪児でおまじない用に死んだネコをぶらさげ持っているような少年です。国や時代背景が違うものの、親や先生の言うことを守るタイプの子どもであった自分にはあまり友達になれそうな気がしなかったのでしょう。
トムの弟シッドは兄のいたずらを告げ口したりとあまりいい描き方はされていないのですが、どちらかといえば弟側の人間であるという自覚もあったので、トムの世界に送り込まれたとしても彼らに気に入ってもらえることはないんだろうなという思いが、物語にのめり込むのを妨げていたような気がします。
ただ、自分が死んで、まわりの人が嘆き悲しむ姿をトムが夢想する場面には共感できた記憶が蘇ってきましたので、全ての面で受け入れられなかったわけではなさそうです。

子どもの頃、教育評論家的な人たちがガキ大将がいなくなったと嘆くのをよく耳にしました。乱暴な面があったとしてもそこから学べることもたくさんあった。そうした存在のいない今の子どもたちはかえってかわいそうだ、というようなことを言っていたと思います。
大人になった今ではその論調もわからないでもないのですが、現役の子どもだった当時は自分たちの遊びに年上が絡んできて支配されるなんてまっぴらだし、ケンカなんかしないに越したことはないと思っていたので「ガキ大将待望論」にはもやもやしたものを感じていました。
こんな子どもだったわけですから、ガキ大将的存在であるトムに仲間意識を持てなかったのもうなずけます。もっとも、大人が偉そうに言うことは簡単には信用できないという点では意気投合できたかもしれません。


カブトムシはあまり挟まない

少年少女講談社文庫は絶版ですが、講談社の「21世紀版・少年少女世界文学館」というシリーズに同じ亀山龍樹が訳したものが入っています。残念なことに挿絵は高橋清ではないので、昭和感あふれる豊富な挿絵も合わせて楽しみたいという方は図書館を当たるか古本屋さんで探すしかないでしょう。
「21世紀版」は細かい部分で訳が変わっています。例えばトムが教会に持ち込んだカブトムシが犬の鼻を挟んで騒動になるという場面、旧訳では

むくいぬは、けたたましくないて、頭をぶるん、ぶるんやったので、かぶとむしは二メートルほどはねとばされて、またあおむけにころがった。

となっていますが、新訳では

プードルは、けたたましくないて、頭をぶるん、ぶるんやったので、くわがた虫は二メートルほどはねとばされて、またあおむにけころがった。

となっています。カブトムシが犬の鼻を挟むということに違和感を覚えた部分ですので、この新訳は納得です。ちなみに原文ではbeetleという甲虫全般を指す単語が使われています。プードルという犬種も一般に認知されるようになったのでムク犬というあまり聞かなくなった言葉から代えたのでしょう。
他にも「さんしきすみれ」が「パンジー」になっているなど時代に合わせて名詞が変化しているようですが、全体から受ける印象は旧訳のままだと思います。


参考書並みの注釈
ちょっと話がそれますが「21世紀版・少年少女世界文学館」の「トム=ソーヤーの冒険」には注釈が多くてびっくりさせられました。古文の参考書かと思うくらい頻繁に出てきます。注釈のないページの方が少ないだろうと思えるぐらいです。

いい服を着てめかし込んだ少年とトムが遭遇する場面では

なんでもない金曜日なのに、くつまではいていた。

という一文の脇に小さな文字で

当時、トムたちは平日はくつをはかず、日曜日、教会へいくときくつをはいた

と書かれています。これは当時の習慣が現代とは違っていたことに気づかせてくれる正統派のいい注釈だと思います。
「大胆不敵」に対して

びくびくしないで度胸があること

と書かれているのも、まあ、難しい言葉を説明するという点ではわかります。しかし、トムが引っ越してきた少女ベッキーに一目惚れする場面、

そこでトムは、自分は気がついていないふりをして、新しい天使の気をひくために、「見せびらかし」の芸当を、いろいろやりはじめた。

という一文の「天使」に対して

美しい女性を、神からのつかいにたとえたことば

と比喩にまで注釈をつけてしまうのはちょっとやりすぎのような気がしました。ここまでの親切設計だと読書のリズムを崩すだけのような気がしてくるのですが、どうなんでしょうか。

(2017.7.13更新)

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