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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

地底恐竜テロドン

バローズ・作
久米元一・訳
武部本一郎・さし絵
偕成社 昭和四十六年発行

地底恐竜テロドン
イラスト:浅渕紫歩

表紙絵がカッコイイ
偕成社より出版されたSF名作シリーズの第7巻で、読んだのは小学校高学年の頃だと思います。
表紙には先端にドリルをつけた地底探査機(サンダーバードに出てくるジェットモグラタンク風と言えば私と同世代の人にはわかってもらえると思いますが)と、そのかたわらで弓を構える男、そして襲いかかってくる何匹ものプテラノドンのような翼竜が描かれています。このなんとも男の子心をくすぐる絵に惹かれて、おそらくジャケ買いに近い感じで購入したのではないでしょうか。

作者はエドガー・ライス・バローズ。火星シリーズやターザン・シリーズで有名な作家です。地底世界での冒険を描いたペシルダー・シリーズという作品も1914年から発表していて「地底恐竜テロドン」は全7巻からなるシリーズの1巻目を訳者が子ども向きにリライトしたものです。読み返してみてちょっと消化不良っぽい終わり方だなと感じたのですが、そのあともお話が続くことを知って納得しました。

ちなみに「テロドン」という名前はこの本だけのもので、原作ではマハールという名称です。プテラノドンをイメージさせる名前にした方が子どもの食いつきがいいだろうという出版社の戦略だったのかもしれません。


19歳の社長
主人公のデビッド=イネスは弱冠19歳ながら亡くなった父親の後を継いで鉱山を経営しています。
老技師ペリーと共に地底探査機「鉄のもぐら」の試運転に出かけた際、舵の故障で遭難してしまい、ふたりは地下800kmの位置に広がる空間にたどり着きます。そこはテロドンと呼ばれる翼竜が地底に住む人間を支配する世界でした。テロドンは地底人を奴隷として働かせ、食料として食べてしまうのです。
ちなみに「読者のみなさんへ」という訳者・久米元一の前書きがあり、そこには

しかしデビッドはどんなこんなんにもまけません。知恵と勇気によって、ついに恐竜テロドンをたおす方法を発見して、地底の世界にふたたび平和をとりもどします。

と結末まで書かれてしまっています。もっとも主人公が様々な困難に立ち向かっていく様子がテンポ良く描かれていて、最後まで一気に読めてしまう本なのでこの程度のネタバレは全然気になりませんでした。


地底だけど空はある
初めて地底世界に降り立ったデビッドは太陽に明るく照らされている海やジャングルを見て無事地上に戻ってこれたのだと勘違いしてしまいます。以下は老技師ペリーとの会話です。

「デビッドさん、あなたはあの太陽を見て、どこかへんだ、と思いませんか?」
「そういえば、いつも見ている太陽よりもずっと大きくて、しかも、近いところにあるようですね。色もへんです。オレンジ色のやわらかい光で、じっと見つめていても、ちっともまぶしくありませんね。」
「そうです。あれはこの地底の国をてらす特殊な発光体です。わたしの考えでは、あの太陽は、地球の自転や公転には関係なく、いつもあの位置にあるのだと思います。つまりこの地底の国では、夜というものがなくて、いつも昼まなのです。」

地底だからといって頭の上にごつごつした岩肌が見えるわけではなくちゃんと空があります。子どもの頃はこの不思議な世界の太陽の正体は球状になった溶岩の塊なんだろうかなどと一生懸命想像を巡らせました。なにより「じっと見つめていても、ちっともまぶしく」ないという描写がすごく印象に残っています。


プテラノドンの手先が器用だとは思えない
テロドン以外にもゴリラ人間や30メートルもある大海蛇など様々な脅威がデビッドに襲いかかってきます。そんなスピーディーな展開が気になってあっという間に読み終えてしまったという思い出がある一方、いまひとつお話にのめり込めなかったという記憶もあります。原因は明らかで、地底世界の支配者であるテロドンの姿形が翼竜だったからです。
テロドンは図書館を持っていたり、冷房装置付きのビルを建造していたり、メスやピンセットを使って人間の生体解剖までしています。地底に住む人間が古代ローマ人レベルなのに、それをはるかにしのぐ、地上の人間であるデビッドたちと互角のテクノロジーを持っているのです。
それなのに姿形はプテラノドン。本を書いたり、冷房装置を開発したり、メスを器用に扱っている姿を想像するのは難しいです。地底世界にはティラノサウルスやブロントサウルスのような恐竜もいるのですが、それらは特に知能が高いわけではなく、恐竜然としているので、なおさら人間並みの知能と技術を持つテロドンに違和感を覚えたのでしょう。

こうした少々大人っぽい捉え方をする程度には成長していました。ただデビッドと地底人の王女ダイアンのロマンスという、ハリウッド映画にありがちな展開についての記憶がまったくといっていいほどなかった点を考えると、まだまだ子どもだったともいえそうです。


※今回から浅渕紫歩さんにもイラストを提供していただいています。浅渕紫歩さんについてはこちらをご覧ください。

(2017.9.23更新)

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