ある時、朝ごはんのマスを食べようとしていたカワウソのジョーは背後からバスターにいきなり声をかけられ、びっくりしてせっかく獲ったマスを放り出してしまいます。
「ほら、きみのますだよ。かわうそくん。」
いったい、だれが、おどかしたのかとおもって、ジョーが、水の中から あたまをだしたとき、くまのバスターはいいました。
「ここまで、とりにおいでよ。」
でも、かわうそのジョーは、バスターが、こわかったので、とりにきませんでした。
残されたマスは無駄にするのはもったいないというもっともらしい理由をつけられてバスターのお腹に収まることになりました。
バスターちょっとカワウソをからかってやろうと思っただけで、驚かせてマスを奪ってやろうと意図したわけではありません。問題は自分の存在が小さい者たちにとって脅威だということが今ひとつ理解できていない点でしょう。なおかついたずら好きとあっては、その振る舞いにイラっとする住人も多かったかもしれません。
ところがバスターはバスターで人間のことが苦手でした。その後ばったり顔を合わせてしまうことが二度も起きてしまったバスターとトム。一度目も二度目も、ふたりそろって相手から大慌てで逃げ出しています。
この光景を目撃したカラスのブラッキーやカケスのサミー、リスのチャタラーといった噂好きな連中は一転してバスターのことを臆病者とはやしたてました。
でぶっちょくまは ながいつめで
はも するどくて つよいのに
森のどこかに にげこんで、
あさから ばんまで かくれてる。
やーい、やーい。
自分たちのことは棚に上げた、結構えげつない手のひら返しです。
いくらのんびり屋のバスターとはいえ、からかいが度を越してしつこければ癇癪も起こします。そして怒り出せばさすがにクマ。みんなはその迫力にすっかりおとなしくなってしまいました。
ある日お腹を空かせたバスターはわざわざ人間に出くわす可能性の高い牧場へ足を運びます。結果としてトムと二度目の鉢合わせをしてしまうその場所に、危険を冒してまで出かけた理由こそがコケモモでした。
バスターがとても美味しそうに食べ、人間のトムもその実を使ったパイを夢にみるほどの、見たことも聞いたこともない果物、コケモモ。注釈には
一〇センチぐらいの木で、あまずっぱいみがなる
と書かれてはいるものの、なかなか想像がつきませんでした。
グレープフルーツが舶来の高級な果物としてもてはやされていたような時代の自分にとって、コケモモはよくわからないけれどとってもおいしいはずの憧れの果物となったのです。
大人になってからコケモモとは知らずに飲んだクランベリージュースにはちょっと酸味が強いなという印象を持ちました。子どもの頃に飲んでいたら憧れが強かった分、がっかりしてしまったでしょうか。
いえ、きっと満足したに違いありません。なぜならバスターやトムがあれほど夢中になっていたのですから。
コケモモはとっても美味しいもの、ということで。
※今回から杉本早さんにもイラストを提供していただいています。杉本早さんについてはこちらをご覧ください。