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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

くまのバスターはあわてもの

ソーントン・バージェス/作
丹野節子/訳
小林与志/絵
金の星社 昭和44年11月25日 490円

くまのバスターはあわてもの
イラスト:杉本 早

無意識だけにタチが悪い
バージェス・アニマル・ブックス、第4巻の主人公はクマです。
訳者のあとがきにバスター(Buster)という名前には「ふとっちょ」という意味があると書かれているようにその性格はのんびりしていて温和。ずっと一頭で暮らしていたのでつい独り言が出てしまうといった可愛い所があります。
ただ、からだが大きく、声も低いガラガラ声なので他の動物たちからは怖がられていました。

ある時、朝ごはんのマスを食べようとしていたカワウソのジョーは背後からバスターにいきなり声をかけられ、びっくりしてせっかく獲ったマスを放り出してしまいます。

「ほら、きみのますだよ。かわうそくん。」
いったい、だれが、おどかしたのかとおもって、ジョーが、水の中から あたまをだしたとき、くまのバスターはいいました。
「ここまで、とりにおいでよ。」
でも、かわうそのジョーは、バスターが、こわかったので、とりにきませんでした。

残されたマスは無駄にするのはもったいないというもっともらしい理由をつけられてバスターのお腹に収まることになりました。

バスターちょっとカワウソをからかってやろうと思っただけで、驚かせてマスを奪ってやろうと意図したわけではありません。問題は自分の存在が小さい者たちにとって脅威だということが今ひとつ理解できていない点でしょう。なおかついたずら好きとあっては、その振る舞いにイラっとする住人も多かったかもしれません。


やーい、やーい
シリーズに人間の代表としてちょくちょく登場するブラウン農場のトム少年。自然豊かな環境で育った彼でもやはりクマのことは怖いようで、釣りに出かけてもバスターの気配を感じると怯えて家に帰ってしまいます。
日頃からトムをやっかいな存在だと思っていた動物たちにしてみれば胸のすく思いでした。期せずしてトムを追っ払ったことになったバスターは一躍英雄扱いです。

ところがバスターはバスターで人間のことが苦手でした。その後ばったり顔を合わせてしまうことが二度も起きてしまったバスターとトム。一度目も二度目も、ふたりそろって相手から大慌てで逃げ出しています。
この光景を目撃したカラスのブラッキーやカケスのサミー、リスのチャタラーといった噂好きな連中は一転してバスターのことを臆病者とはやしたてました。

でぶっちょくまは ながいつめで
はも するどくて つよいのに
森のどこかに にげこんで、
あさから ばんまで かくれてる。
やーい、やーい。

自分たちのことは棚に上げた、結構えげつない手のひら返しです。
いくらのんびり屋のバスターとはいえ、からかいが度を越してしつこければ癇癪も起こします。そして怒り出せばさすがにクマ。みんなはその迫力にすっかりおとなしくなってしまいました。


コケモモ
ところで自分がこの本を手にしてまず一番に思い出すのはコケモモのことです。

ある日お腹を空かせたバスターはわざわざ人間に出くわす可能性の高い牧場へ足を運びます。結果としてトムと二度目の鉢合わせをしてしまうその場所に、危険を冒してまで出かけた理由こそがコケモモでした。
バスターがとても美味しそうに食べ、人間のトムもその実を使ったパイを夢にみるほどの、見たことも聞いたこともない果物、コケモモ。注釈には

一〇センチぐらいの木で、あまずっぱいみがなる

と書かれてはいるものの、なかなか想像がつきませんでした。
グレープフルーツが舶来の高級な果物としてもてはやされていたような時代の自分にとって、コケモモはよくわからないけれどとってもおいしいはずの憧れの果物となったのです。


コケモモの正体
年を経ると共にその憧れも薄れてしまったコケモモについてせっかくの機会なので調べてみた所、クランベリーであることが判明しました。今だったらコケモモとは訳されず、そのままクランベリーと書かれるのかもしれません。
ちなみに原書ではberryとなっていてcranberryとは書かれていません。作者の生活していたマサチューセッツはクランベリーが特産品らしいので、訳者がそう判断したのでしょう。「くまのバスターはあわてもの」は海外の青空文庫のようなサイトにあるので、そこで情報を得ることができました。

大人になってからコケモモとは知らずに飲んだクランベリージュースにはちょっと酸味が強いなという印象を持ちました。子どもの頃に飲んでいたら憧れが強かった分、がっかりしてしまったでしょうか。
いえ、きっと満足したに違いありません。なぜならバスターやトムがあれほど夢中になっていたのですから。

コケモモはとっても美味しいもの、ということで。


※今回から杉本早さんにもイラストを提供していただいています。杉本早さんについてはこちらをご覧ください。

(2018.6.23更新)

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