「ホビットの冒険」が出版されたのは1937年でした。この作品の成功から後日譚である、日本でもヒットした映画「ロード・オブ・ザ・リング」の原作「指輪物語」が生まれます。
壮大な世界観なので聖書や歴史書を読むようなとっつきにくさはあると思います。
文章も難しくはないものの、ちょっとクセがあります。例えば冒険者たち一行が暗いドラゴンの棲家から陽の当たる場所へ抜け出た時、眼前に広がる光景は次のように描写されています。
霧にかすむ日の光が、山の尾根のあいだにだかれたここに、白々とした光を投げ、門のしきい口の石板の上に、いくすじかの金色のもれ日をおとしていました。
情けないことに、大人となった現在の読解力でもすんなり頭に入ってきませんでした。
さらにエルフやゴブリンといった「ホビットの冒険」に欠かすことのできない存在が皮肉にもこの物語世界に入る際の障害になっていたように思います。
今でこそRPGやアニメなどのおかげで簡単にイメージできるようになった架空の種族について、当時はほとんど知識を持っていなかったからです。
ホビット族については本文中、次のような解説があります。
ドワーフ小人よりも小さくて(ドワーフ小人は、白雪姫に出てくる七人の小人たちの仲間です。ドワーフにはひげがはえていますが、ホビットにはありません)、リリパット小人よりは大きいのです(リリパット小人は、ガリバーの話に出てくる小人国の小人です)。
ドワーフやリリパットを引き合いに出して説明されても日本で生まれ育った少年には天狗や河童のような馴染みがなく「小難しい」「とっつきにくい」と感じてしまった可能性が高いです。
それでもビルボが姿を消すことのできる指輪を手にいれるエピソードや巨大なクモの群れをやっつけるシーンには引き込まれました。昔はこうしたわくわくする場面まで到達できなかったわけです。
クライマックスの激しい戦いの末に迎えるドワーフたちとの別れのシーンには「ついにこの長い物語との戦いにもけりをつけることができた」という思いも相まって、普通の読後感とはまたちょっと違った感動を覚えました。
また、あとがきなどからホビット族はトールキンが創作したものだと知りました。新たにファンタジー小説を書いたとしてもホビットという名称は版権の都合でエルフやドワーフのようには使えないということです。てっきり昔からの伝承に出てくるような存在なんだろうと思っていたので、へぇ!という感じでした。
「ホビットの冒険」は「ロード・オブ・ザ・リング」同様映画化されているので、読破記念に観てみました。小説ではあっさり描かれていた部分が補完されていたり、映画的に新たなロマンスが加えられていたりして見ごたえがあり、なによりも異形渦巻く世界の視覚化がすごかったです。
ただ、三部作合計475分はちょっと疲れました……。