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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ホビットの冒険

J.R.R.トールキン 作
瀬田貞二 訳
寺島竜一 絵
岩波書店 一九六五年十一月十三日 第一刷発行
一九七五年二月二十日 第四刷発行 1400円

ホビットの冒険
イラスト:蜥蜴男

「指輪物語」の前のお話
ドワーフという小人族にはかつて凶悪なドラゴンに財宝を奪われた過去がありました。それをとり戻すために十三人のドワーフたちが魔法使いガンダルフの力を借りて立ち上がります。
この一行に「忍びの者」としてガンダルフから推薦されたのが同じ小人族でもホビットという種族のひとり、ビルボ・バギンズでした。 争いを好まないビルボにしてみればドワーフたちに手を貸すいわれはなく、経済的にも豊かでのんびり暮らしていた身だったので宝物の山分けという提案にもあまり心を動かされなかったのですが、祖先から流れる冒険者の血筋のためか、結局はこの命がけの旅に加わることになります。

「ホビットの冒険」が出版されたのは1937年でした。この作品の成功から後日譚である、日本でもヒットした映画「ロード・オブ・ザ・リング」の原作「指輪物語」が生まれます。


鬼門
実はこの作品を読み通すのは今回が初めてでした。小学校高学年の頃はどうしても読み進めることができず途中で断念してしまったのです。
一冊の本を読み通すことができないというのはほぼ初めての経験で、そこそこの読書家であるという自負があった分、ちょっとへこみました。また1400円の本はかなり高額の部類でしたので、それを読み切らずに途中でやめてしまうことに対しての罪悪感も大きかったです。
さすがにもう読めるだろうと高校生になって再チャレンジしてみましたが、三分の一も進まない段階でギブアップしてしまいました。

壮大な世界観なので聖書や歴史書を読むようなとっつきにくさはあると思います。
文章も難しくはないものの、ちょっとクセがあります。例えば冒険者たち一行が暗いドラゴンの棲家から陽の当たる場所へ抜け出た時、眼前に広がる光景は次のように描写されています。

霧にかすむ日の光が、山の尾根のあいだにだかれたここに、白々とした光を投げ、門のしきい口の石板の上に、いくすじかの金色のもれ日をおとしていました。

情けないことに、大人となった現在の読解力でもすんなり頭に入ってきませんでした。

さらにエルフやゴブリンといった「ホビットの冒険」に欠かすことのできない存在が皮肉にもこの物語世界に入る際の障害になっていたように思います。
今でこそRPGやアニメなどのおかげで簡単にイメージできるようになった架空の種族について、当時はほとんど知識を持っていなかったからです。
ホビット族については本文中、次のような解説があります。

ドワーフ小人よりも小さくて(ドワーフ小人は、白雪姫に出てくる七人の小人たちの仲間です。ドワーフにはひげがはえていますが、ホビットにはありません)、リリパット小人よりは大きいのです(リリパット小人は、ガリバーの話に出てくる小人国の小人です)。

ドワーフやリリパットを引き合いに出して説明されても日本で生まれ育った少年には天狗や河童のような馴染みがなく「小難しい」「とっつきにくい」と感じてしまった可能性が高いです。


リベンジ
読み終わるまでに一ヶ月近くかかってしまいましたが、今回は最後まで読み通すことができ、なんとかリベンジを果たせました。
大人的に読んでいて辛かったのは、ガンダルフに必要な存在だと請われて冒険に参加したものの、ドワーフたちからは無能なお荷物扱いされてしまうビルボの立ち位置でした。乗り気でないプロジェクトに無理やり組み込まれた上に、現場のスタッフもあまり協力的ではないという、早く終わってくれないかと祈ってしまうような「嫌な仕事」を連想してしまったからです。

それでもビルボが姿を消すことのできる指輪を手にいれるエピソードや巨大なクモの群れをやっつけるシーンには引き込まれました。昔はこうしたわくわくする場面まで到達できなかったわけです。
クライマックスの激しい戦いの末に迎えるドワーフたちとの別れのシーンには「ついにこの長い物語との戦いにもけりをつけることができた」という思いも相まって、普通の読後感とはまたちょっと違った感動を覚えました。


版権
前述の通りゲームやアニメから得た知識のおかげで「ホビットの冒険」は昔よりも楽に読み進めることができました。しかしそのゲームやアニメの世界観に多大な影響を与えたのはトールキンの小説だったりします。
時間はかかってしまいましたが自分にとっての「読みにくい」問題はトールキンの手によって解決されたと言ってもいいのかもしれません。

また、あとがきなどからホビット族はトールキンが創作したものだと知りました。新たにファンタジー小説を書いたとしてもホビットという名称は版権の都合でエルフやドワーフのようには使えないということです。てっきり昔からの伝承に出てくるような存在なんだろうと思っていたので、へぇ!という感じでした。

「ホビットの冒険」は「ロード・オブ・ザ・リング」同様映画化されているので、読破記念に観てみました。小説ではあっさり描かれていた部分が補完されていたり、映画的に新たなロマンスが加えられていたりして見ごたえがあり、なによりも異形渦巻く世界の視覚化がすごかったです。
ただ、三部作合計475分はちょっと疲れました……。

(2018.9.9更新)

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