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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

小さなスプーンおばさん

アルフ=プリョイセン 作
大塚勇三 訳
ビョールン=ベルイ 画
学習研究社 昭和四十一年二月二十日 初版発行
昭和四十五年十二月一日 二十五刷発行 380円

小さなスプーンおばさん
イラスト:杉本 早

ノルウェーの作品
ごくふつうのおばさんがある朝目覚めるとその姿はティースプーンほどの大きさになっていました。時間が経てば何事もなかったかのように元に戻れるのですが、その朝以降これといった前触れもなく、度々小さくなるようになってしまいます。
この本にはそんなおばさんに巻き起こる愉快な騒動が全部で12編収録されています。作者はノルウェー人で、時折出てくる「ヨーレ」というお金の単位がフランスでもドイツでもない、あまり馴染みのないヨーロッパの国なんだなということを意識させてくれます。

1983年にはNHKで「スプーンおばさん」というタイトルでアニメ版が放映されていましたので内容を知っている方も多いかもしれません。児童書としてはかなり高い知名度の作品かと思います。


みんなには秘密
お気に入りの本で、何度も読んだはずなのに各エピソードについての印象は意外に薄く「そういえばこんなお話だったなぁ」というぼんやりとした記憶しか蘇ってきませんでした。

おっとりした人というイメージだった主人公のおばさんは、読み返してみると意外にアクティブな人でした。初めて小さくなってしまった時も肝が座っているのか、大した動揺も見せません。

「なるほど。スプーンみたいに小さくなっちゃったんなら、それでうまくいくようにやらなきゃならないわね。」

小さくなるとなぜか動物と話せるようになるので、ネズミやネコ、イヌにうまく命令して手際よく家事を片付けます。頭の回転が良くなければできない芸当です。
ただネコにきれいにさせた食器(つまりは舐めてきれいにさせた食器)をそのまま使うのはちょっと遠慮したいなとは思いました。

両親が共働きで寂しいクリスマスを送らなければならない小さな女の子におばさんがお人形をプレゼントするお話は優しい感じがして面白かったです。おばさんが小さくなってしまうことを知っているのはご亭主の他にはこの女の子だけなので秘密の共有をしている絆みたいなものも感じられました。
アニメ版をご覧になっていた方々はおばさんと関係の深い女の子というとルウリィというキャラクターを思い浮かべるかもしれません。自分はアニメ版をほぼ観ていなかったので、もしかして原作では名前もなかった女の子がルウリィとしてメインキャラに昇格したのかなと思って調べてみたのですが違いました。
ルウリィは謎の多い妖精のようなアニメオリジナルのキャラクターだそうです。「スプーンおばさん」で画像検索するとルウリィもたくさん出てきますので、なかなかの人気キャラだったのでしょう。


コケモモ
子ども向けのお話でありながら、長く連れ添っているご亭主に抱いている日頃の不満やふとした時に垣間見せる愛情、あるいは朝ご亭主を送り出した後の

さて、ごていしゅのすがたが見えなくなってしまうと、おばさんは、また、どのおばさんもやるとおりのことをしました。つまり、うちの中をかたづけたりなんかしないで、またベッドによこになって……ねこんだんです。

といった描写などはホームコメディー的で、大人をニヤッとさせるものがあります。なんとなく「サザエさん」を連想してしまいました。

エピソードの中には機嫌の悪いご亭主にバンケーキ用のジャムを作ってあげようと、おばさんがコケモモを採りにいくお話もありました。「くまのバスターはあわてもの」を読んだ時のように、当時の自分はやはり未知なる食材コケモモに思いを馳せたに違いありません。


コショウ入れおばさん
大人になってから「『スプーンおばさん』の原題は『コショウ入れおばさん』である。『コショウ入れ』という単語が日本人には馴染みが薄いのでサイズ的に近い『スプーン』という単語に変更された」といった情報をどこかから仕入れました。
手持ちの本にも英語で「LITTLE OLD MRS. PEPPER POT」と記されているのでここでもそう書こうと思ったのですが、改めて調べてみると「コショウ入れ」とされているのは主に英語版であって、ノルウェー語のオリジナル版では「ティースプーン」であることが判明しました。
あぶなく間違った知識を自慢気にさらしてしまうところでした……。

なぜ英語版ではスプーンからコショウ入れに変えられてしまったのか。残念ながらネットで少し調べた程度ではわかりませんでした。

(2018.9.5更新)

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