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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ハルとロジャーの冒険大作戦 6

密猟王黒ひげ

ウイラード・プライス 著
亀山竜樹 訳
中山正美 さし絵
集英社 昭和49年3月 初版 450円

密猟王黒ひげ
イラスト:浅渕紫歩

敵は密猟者軍団
ケニアにある国立公園の監視官から密猟者を退治する戦いに加勢して欲しいと頼まれたハルとロジャーは勇んでその申し出を受けます。
ところが何百人といる敵は毒矢などで武装しているというのに監視官側は相手を殺すことはもちろん、武器すら持ってはいけないと法律で定められています。

「あなたの部下の人たちが、ずいぶん殺されたってことでしたがね?」
「22人の監視員のうち、12人が殺されたよ。」

ハルの質問に対して恐ろしいことをあっさり答える監視官。どう考えても10代の少年が請け負うようなミッションではありません。
アフリカ人の密猟者たちを統率しているのはその風貌から「黒ひげ」と呼ばれている白人です。果たしてハルとロジャーは黒ひげを捕らえることができるのか、そして謎めいた黒ひげの正体とは、というちょっとミステリー仕立ての感じもあるお話でした。


残酷な行為
珍しい動物たちとの出会いというより密猟者たちの行いがいかに残虐なものであるかということが強調された一冊ではあります。
罠にかかって苦しんでいるシマウマは尻尾だけが山刀で切り取られています。観光客がお土産として買うハエ叩きにするためです。密猟者は尻尾だけが獲れればいいので、シマウマがどうなろうと御構い無しです。
他にもゾウの足をくり抜いて作った300個以上のくずかごや540本もの象牙、大量のサイの角やヒョウの頭部など目を背けたくなるような現実がこれでもかと出てきます。
せっかく罠から救い出してあげたガゼルがロジャーの腕の中で息絶えるようなシーンもあり、かなり気が滅入りました。

監視員を増やすだけの予算が国にはないので密猟者も減らない。そのために野生動物は絶滅の危機に瀕し、野生動物という観光資源を失えば国はますます貧しくなるという悪循環にまで踏み込んでくる、なかなかに社会派な本です。


チーターの主食
重苦しい雰囲気を和らげてくれるのがロジャーとチーターの触れ合いです。
ゾウを捕らえるための穴に落ちてしまったロジャーはそこで一頭のチーターに出くわします。同じ罠にはまった者同士で気が合ったのか、チーターはあっという間にロジャーに懐きます。
本文中でチーターは人間にもよく慣れ、鷹匠のタカのように狩りに利用されることもあると解説されています。とはいえ成獣となった野生の肉食獣が簡単に人間に慣れることはまずありえないでしょう。幼い頃から動物に慣れ親しんできたロジャーならではの特殊能力です。

一番記憶に残っていたのはチーターのためにマサイ族の村に出向いて牛の血を分けてもらう場面です。チーターが欲するのは動物の血であると説明されていたので、しばらくの間はチーターは血を飲むだけで肉は食べないものと思い込んでいました。
実際のチーターは普通に獲物の内臓や肉を食べます。血だけをすすって生きているという知識を修正するには、その後何本もの動物番組を観る必要がありました。

本には牛の血とミルクがマサイ族の普段の食事であるとも書かれています。

「マサイ族は、血とミルクのほかは、なにも食べないんですか? 肉も野菜もくだものも?」
「ハイカラさんは、祭日などにはちょっぴり肉など食べるようだが、たいていの者は肉には見むきもしないね。野菜はまるっきり食べない。(中略)くだものも、どんな種類のものだろうと食べない。」

さて、この情報の真偽はどうなのでしょう。

ロジャーはマサイ族から供された牛の血とミルクを混ぜ合わせたものを飲み干します。「もし未開の地に行くことがあっても出されたものは喜んで食べよう」という少年の密かな決心が大きく揺らいだ場面でした。


フローネ
作中「ツリートップス」という木の上に建てられ、高い位置から湖水にやってくる動物をゆっくり観察できる実在のホテルが登場します。エリザベス女王が王女時代に宿泊したこと、そしてホテルが作られた経緯などを現地のスタッフが説明してくれます。

「よっぽど想像力のある人しか、思いつかんでしょうや。作ったのは女の人ですよ。ベティ・ウォーカーって人が、ここが国立公園になるまえに、友だちといっしょにきましてね。ベティさんは『ロビンソンの家族』てえ本をよんでたんです。その本から、木の上の家を思いつきなすったんですよ。あきれた、って人もいたでしょうがね。」

子どもの頃は読み流していたと思われるこの部分が今回はひっかかりました。「ロビンソンの家族」「木の上の家」という言葉から1981年に放送されていた『不思議な島のフローネ』というアニメが頭に浮かんだからです。
ざっくり調べてみた結果、たぶんフローネの原作である『スイスのロビンソン』という作品がきっかけとなってホテルが建てられたのだろうなという結論に自分の中では落ち着きました。

もっとも『スイスのロビンソン』にはアニメ版の主人公であるフローネという少女は存在していないということを知って、それが一番の驚きとなってしまいましたが。

(2018.11.12更新)

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