「あなたの部下の人たちが、ずいぶん殺されたってことでしたがね?」
「22人の監視員のうち、12人が殺されたよ。」
ハルの質問に対して恐ろしいことをあっさり答える監視官。どう考えても10代の少年が請け負うようなミッションではありません。
アフリカ人の密猟者たちを統率しているのはその風貌から「黒ひげ」と呼ばれている白人です。果たしてハルとロジャーは黒ひげを捕らえることができるのか、そして謎めいた黒ひげの正体とは、というちょっとミステリー仕立ての感じもあるお話でした。
監視員を増やすだけの予算が国にはないので密猟者も減らない。そのために野生動物は絶滅の危機に瀕し、野生動物という観光資源を失えば国はますます貧しくなるという悪循環にまで踏み込んでくる、なかなかに社会派な本です。
一番記憶に残っていたのはチーターのためにマサイ族の村に出向いて牛の血を分けてもらう場面です。チーターが欲するのは動物の血であると説明されていたので、しばらくの間はチーターは血を飲むだけで肉は食べないものと思い込んでいました。
実際のチーターは普通に獲物の内臓や肉を食べます。血だけをすすって生きているという知識を修正するには、その後何本もの動物番組を観る必要がありました。
本には牛の血とミルクがマサイ族の普段の食事であるとも書かれています。
「マサイ族は、血とミルクのほかは、なにも食べないんですか? 肉も野菜もくだものも?」
「ハイカラさんは、祭日などにはちょっぴり肉など食べるようだが、たいていの者は肉には見むきもしないね。野菜はまるっきり食べない。(中略)くだものも、どんな種類のものだろうと食べない。」
さて、この情報の真偽はどうなのでしょう。
ロジャーはマサイ族から供された牛の血とミルクを混ぜ合わせたものを飲み干します。「もし未開の地に行くことがあっても出されたものは喜んで食べよう」という少年の密かな決心が大きく揺らいだ場面でした。
「よっぽど想像力のある人しか、思いつかんでしょうや。作ったのは女の人ですよ。ベティ・ウォーカーって人が、ここが国立公園になるまえに、友だちといっしょにきましてね。ベティさんは『ロビンソンの家族』てえ本をよんでたんです。その本から、木の上の家を思いつきなすったんですよ。あきれた、って人もいたでしょうがね。」
子どもの頃は読み流していたと思われるこの部分が今回はひっかかりました。「ロビンソンの家族」「木の上の家」という言葉から1981年に放送されていた『不思議な島のフローネ』というアニメが頭に浮かんだからです。
ざっくり調べてみた結果、たぶんフローネの原作である『スイスのロビンソン』という作品がきっかけとなってホテルが建てられたのだろうなという結論に自分の中では落ち着きました。
もっとも『スイスのロビンソン』にはアニメ版の主人公であるフローネという少女は存在していないということを知って、それが一番の驚きとなってしまいましたが。