サイト名

昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

川っ子サムの冒険

スターリング=ノース 作
三橋宣子 訳
長尾みのる 画
学習研究社 昭和46(1971) 550円

川っ子サムの冒険
イラスト:点線

ちゃんと読んでいない
トム=ソーヤーの冒険」の作者、マーク=トウェーンの伝記です。読書好きの子どもではありましたが読むもののほとんどは物語で、こうしたノンフィクション作品にはあまり馴染みがありませんでした。そのためか親に買い与えられたこの本も集中できないまま斜め読みで終えてしまった記憶があります。

今回改めて手にとって作者がスターリング=ノースであることを知り驚きました。この本を読んだ時点ではアニメ「あらいぐまラスカル」は放映していませんでしたので単に外国の作家という認識しかなかったのでしょう。

昔は興味をそそられなかった内容は大人になって読み返してみるととても面白かったです。「世界の伝記」というシリーズの中の一冊なので、エジソンやシュバイツァーといった他のラインナップも読んでみたくなりました。


山師
幸福な少年時代を過ごしていたサミュエル=ラングホーン=クレメンズは父親の死によってわずか11歳で社会に出て働くことを余儀なくされます。
印刷工を皮切りに蒸気船の水先案内人や鉱夫といった様々な職業を経た後、新聞記者となったサムはペンネームをつけることにしました。

「これからは、自分の原稿に名をいれたいんです。」 「そりゃいい。どんな名にするんだね?」 「マーク=トウェーン!」 「マーク=トウェーン? いや、いいとは思うがね、いったいどういう意味だい?」 「水先案内をしていたころのことばです。測鉛手が、安全な二ひろのふかさがあることを確認したときに、さけぶんです――マーク・トウェーン! マーク・トウェーン! とね。」

こうしてマーク=トウェーンが誕生し、現代まで読み継がれる名作が発表されることになります。

経済的に成功した後のトウェーンには莫大な維持費のかかる大豪邸を建てたり、投機に手を出しては失敗するといった山師的行動も目立ちます。幼い頃からお金に苦労してきた経験がそうさせたのかもしれませんし、いつまでも子どもらしく夢を追い続ける人だったのかもしれません。


死の影
結婚し三人の娘に恵まれたトウェーンは「トム=ソーヤーの冒険」を始めとする数々の作品を発表しました。富と名声を得、そしてなにより愛する家族と過ごすことのできた幸せな時代でした。

物語であれば「家族と共に末長く幸せに暮らしました」というハッピーエンドにすることもできますが、そう都合よくいかないのが実際の人生の厳しいところです。
自身の作品を扱うために作った出版社の経営は豪華な自宅をたたまなくてはならないほど悪化し、トウェーンは破産してしまいます。
61歳の時には長女を病気で失い、心に深い傷を負います。明るかった作風も暗いものへと変化していきました。更に69歳で最愛の妻に先立たれ、74歳で三女のジーンを亡くします。

サム=クレメンズは、もうけっして、自分の愛する者のひつぎの上に土をかける音を耳にしたくないと、かねがねいっていた。それで、ジーンがあかんぼうのころからいた、忠実な召使のケティー=レアリーが、ジーンのなきがらにつきそって、エルマイラへむかった。サムは帽子もかぶらずに、屋敷の門にたたずんでいた--クリスマスのかざりつけをうしろにして。

20代の頃には蒸気船の爆発事故で弟を失っているトウェーン。自分よりも若い多くの身内を見送ることになってしまった苦しみは察するに余りあります。


人生の拠り所
三女を失った翌年にトウェーンはこの世を去ります。
その晩年は確かに幸せに満ち溢れた状況ではなかったかもしれません。しかし彼には「トム=ソーヤーの冒険」に描かれているような輝かしい思い出もあれば、妻と娘たちに囲まれて過ごした楽しい日々の思い出もありました。辛いことがあったとしても、あの瞬間は幸せだったと胸を張って言える思い出さえあれば、人間なんとか満足して死んでいけるのではないかなどと思ったりもしました。

まぁ、トウェーンにしてみれば慟哭するような災難に見舞われたこともなくのんべんだらりと生きてきた者にそんなことを言われても大きなお世話でしかないと思いますが。

(2019.1.27更新)

»ひとつ前の感想文を見る

ページのトップへ戻る
inserted by FC2 system