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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

時をかける少女

筒井康隆 作
谷 俊彦 さし絵
鶴書房盛光社 350円

時をかける少女
イラスト:浅渕紫歩

タイムトラベラー
中学3年生の芳山和子は理科実験室で謎の薬品の匂いを嗅いでしまったことから、テレポーテーションとタイムリープという不思議な能力が身についてしまいます。
自分に宿った謎の力に戸惑い怯えていた和子は、やがて問題を解決するために異変の始まった日の理科実験室へ自らの意思で飛ぶ決断を下します。
再び戻ってきた放課後の実験室。そこで和子を待ち受けていたのは同級生の深町一夫でした。

1965年に学習研究社の「中学三年コース」という雑誌で連載がスタートしたこの作品は1972年にNHKで「タイム・トラベラー」というタイトルでドラマ化され、人気に火がつきました。以降映画、テレビドラマ、アニメなど様々な形でメディア化されてきましたのでご存知の方も多いでしょう。
ドラマの「タイム・トラベラー」については放映時まだ小学1年生だったのであまり興味がなく、映像の記憶もありません。ただ4つ上の姉がこのドラマにはまっていました。今回読み返した本もその頃の姉が購入したものです。

映像化作品で自分に馴染みがあるのは1983年の実写映画2006年のアニメ映画で、どちらもSFを土台とした恋愛ものという印象でした。ところが改めて読んでみると原作では恋愛要素がそれほど強くないことがわかります。


深町君の年齢
深町一夫の正体は西暦2660年からやってきたケン・ソゴルという未来人でした。未来に戻るための薬品を調合する必要があったケンは和子をはじめとする周りの人間に架空の記憶を与え、自分を深町一夫という同時代人だと認識させることで学校の実験室を使っていたのです。
深町一夫として過ごす時間の中で和子に惹かれてしまったケンでしたが、未来人が過去に干渉することは固く禁じられていました。ケンは和子の記憶を消して未来に帰り、全てを忘れてしまった和子がなにごともなかったかのように日常に戻るところで物語は終わります。

メディア化された作品はこのちょっと悲しい恋物語の部分を大きく膨らませています。ラブストーリーを求めて原作を読むと物足りなく感じてしまうかもしれません。また映画やアニメの主人公たちが高校生だったおかげで中学生という設定にも違和感がありました。

細かい設定などをすっかり忘れてしまっていた中で一番の驚きは深町君ことケン・ソゴルの実年齢が11歳だったことでした。未来では発育が早く、睡眠学習のおかげで11歳でも大学生並みの学力がある、ということだそうです。


注射
ラノベの元祖と称されることもある本作品ですが、さすがに50年以上も前の作品ですので、おやっと思ってしまう描写も出てきます。
一番面白かったのは物語の発端で薬品の匂いに触れて気を失ってしまった和子が医務室へ運ばれた場面でした。医務室の先生がいなかったため担任の福島先生が連れてこられます。

「うん、貧血だな。」
先生は和子をちょっと診察して、そういった。
和子は注射一本で、すぐに気づいた。
「ああ……。わたし、どうしたのかしら?」

ちょっと診ただけで貧血の診断を下し注射まで打てる福島先生の本職は理科の先生です。医師免許でも持っているのでしょうか。そして、貧血による気絶をたちまち回復させる注射器の中身も気になります。

「時をかける少女」は今でも人気のある作品で街中の本屋さんでも簡単に購入できます。小学生向けの角川つばさ文庫版では注射のくだりがどうなっているのかが気になって見てみたところきれいにカットされていました。普通の角川文庫版からも消えています。
文庫などで再発行する場合の加筆・修正はよくあることではありますが、少しばかり残念な気もしました。


その他の作品
「時をかける少女」はボリューム的には短編の部類ですので、表題作以外に2編のお話が収録されて一冊になっています。
「悪夢の真相」という作品は高所と般若のお面に異常なまでの恐怖を覚える少女が、その根源を追求しやがてトラウマを克服するというサスペンスタッチの青春ミステリーです。
もうひとつの「果てしなき多元宇宙」はこの本の中で一番SFらしい作品かもしれません。パラレルワールドの概念に初めて触れたのもこの作品だったと思います。めでたしめでたしで終わらない感じが大人っぽく思え、小学校高学年当時は「時をかける少女」よりも好きだった記憶があります。

(2020.3.22更新)

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