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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ハルとロジャーの冒険大作戦 12

人食い島横断

ウイラード・プライス 著
久米みのる 訳
中山正美 さし絵
集英社 昭和49年9月 初版 450円

人食い島横断
イラスト:空木 憂

写っているものがわからない
ハルとロジャーの兄弟が世界各地で冒険を繰り広げるこのシリーズを気に入っていたのは野生動物の珍しい生態や原住民の不思議な習慣について知ることができたからです。しばらくその傾向が薄れていた感もあったので、クロコダイルやコモドドラゴンを生け捕りにし、現地部族との交流もたっぷり描かれていてるニューギニアを舞台とした今作には久しぶりに知的好奇心を満足させられたことを覚えています。

中でも一番印象に残っていたのは石器時代のような生活を送っている部族に写真を見せた時の反応です。カバの写真を見せても、皆それがなんなのかわかりません。

ハルは、つぎに、ロジャーの写真をみんなに見せてやった。ロジャーは、茶色い服を着て木にのぼっていて、腹にウシ皮のバッグをさげていた。
「ああ。」
ひと目見るなりパブオがいった。
「これならよく知っている。カンガルーだ。」
「ちがう。」
物知りで有名な老人が反対した。
「これはブタだ。」
他の者たちは、サメかカマスかタコなどと、とんでもないことをいった。
立体的なものが平面的なものになると、わけがわからなくなってしまうようであった。

同じ人類でありながら写真を認識することができないというのは軽くショックでした。写真どころか絵という文化もない環境で育ったならば充分あり得ることなのかもしれません。
おそらく恒久的にわからないということではなく、3次元のものと2次元のものを見比べる経験によって脳の回路がつながって、写真も認識できるようになるのではないでしょうか。


女の人を踏む
現地の人々の信頼を得たハルたち一行は死霊を祀る部族の家に招かれます。しかしそのためには50人以上の半裸で寝そべる女たちの上を歩いていかなければなりませんでした。それが彼らの最高の歓迎だったからです。レディー・ファーストの国に生まれた兄弟にとっては苦行でしかありません。

1歩、1歩、やわらかいだけに、まったくいやな気持ちだった。しかも、その歓迎に満足しているように、演技しなければならないのだから、つらかった。

この「裸の女の人の上を裸足で歩く」という行為に対して、当時なにか妖しい感情が芽生えかけたことを思い出しました。
ロジャーは負担をかけないようにと彼女たちの上を走り抜けます。

ロジャーの計算は正しかった。下の女の人は、痛みをうったえる小さな叫びを、あげなかった。
そして、下から、上を走っていくロジャーに向かって、にっこりとほおえんでみせたのだ。

自分も同じ状況になったら駆け抜けるようにしようと思っていたのですが、当然のことながらそんな機会は訪れませんでした。
ちなみに幼稚園児の頃、腹ばいになった父親の腰の上で足踏みをするマッサージをしたことがあったので人を踏んだ時の足裏の感触はよく知っていました。


復讐者
シリーズには毎度ハルとロジャーの命を脅かすような悪人が現れます。
今回その役を担うのは前作「海底都市の黄金」で刑務所送りになったカグズ、なんと三度目の登場です。兄弟への復讐を果たしたい一念で刑務所を脱走したカグズはニューギニアに直行し、ふたりを付け狙います。
シリーズものだと悪役に人気が出て強敵として何度も登場するというパターンはよくありますが、正直なところカグズは他の悪党と比較すると小物感が強く、それほど魅力的には思えません。ただ前作で逮捕された際にハルに対して

「おれが刑務所からでたとき、おまえと決着をつけてやるからな。」

と捨て台詞を残している点を考えると、作者にとっては次作への登板が内定しているお気に入りキャラだったのかもしれません。もっとも矢でハルを背後から射ったり、兄弟の寝室に毒ヘビを投げ込んだりといったせこい企みはどれも失敗し、最後にはクロコダイルに襲われてその生涯を終えます。


続編
ハルとロジャーの冒険大作戦シリーズは「人食い島横断」をもって完結です。実は後半は少々飽きていたのですが、棚にずらっと並べたい一心でがんばって買い揃えた記憶があります。

1949年に発表された「魔境アマゾン」から1972年の「人食い島横断」まで、約2年に1冊のペースで12作品が書き上げられました。ハルとロジャーの冒険物語はこれが全てだと長年思っていたのですが、調べてみると1979年に「Tiger Adventure」、1980年に「Arctic Adventure」という作品が発表されていました。前者はインド、後者はグリーンランドでトラやシロクマをめぐっての冒険らしいです。

また2012年から14年にかけてAnthony McGowanが4冊の続編を発表しています。ハルの息子で13歳のフレイザーとロジャーの娘で12歳のアマゾンが新シリーズの主人公だそうです。

(2020.9.4更新)

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