中でも一番印象に残っていたのは石器時代のような生活を送っている部族に写真を見せた時の反応です。カバの写真を見せても、皆それがなんなのかわかりません。
ハルは、つぎに、ロジャーの写真をみんなに見せてやった。ロジャーは、茶色い服を着て木にのぼっていて、腹にウシ皮のバッグをさげていた。
「ああ。」
ひと目見るなりパブオがいった。
「これならよく知っている。カンガルーだ。」
「ちがう。」
物知りで有名な老人が反対した。
「これはブタだ。」
他の者たちは、サメかカマスかタコなどと、とんでもないことをいった。
立体的なものが平面的なものになると、わけがわからなくなってしまうようであった。
同じ人類でありながら写真を認識することができないというのは軽くショックでした。写真どころか絵という文化もない環境で育ったならば充分あり得ることなのかもしれません。
おそらく恒久的にわからないということではなく、3次元のものと2次元のものを見比べる経験によって脳の回路がつながって、写真も認識できるようになるのではないでしょうか。
1歩、1歩、やわらかいだけに、まったくいやな気持ちだった。しかも、その歓迎に満足しているように、演技しなければならないのだから、つらかった。
この「裸の女の人の上を裸足で歩く」という行為に対して、当時なにか妖しい感情が芽生えかけたことを思い出しました。
ロジャーは負担をかけないようにと彼女たちの上を走り抜けます。
ロジャーの計算は正しかった。下の女の人は、痛みをうったえる小さな叫びを、あげなかった。
そして、下から、上を走っていくロジャーに向かって、にっこりとほおえんでみせたのだ。
自分も同じ状況になったら駆け抜けるようにしようと思っていたのですが、当然のことながらそんな機会は訪れませんでした。
ちなみに幼稚園児の頃、腹ばいになった父親の腰の上で足踏みをするマッサージをしたことがあったので人を踏んだ時の足裏の感触はよく知っていました。
「おれが刑務所からでたとき、おまえと決着をつけてやるからな。」
と捨て台詞を残している点を考えると、作者にとっては次作への登板が内定しているお気に入りキャラだったのかもしれません。もっとも矢でハルを背後から射ったり、兄弟の寝室に毒ヘビを投げ込んだりといったせこい企みはどれも失敗し、最後にはクロコダイルに襲われてその生涯を終えます。
1949年に発表された「魔境アマゾン」から1972年の「人食い島横断」まで、約2年に1冊のペースで12作品が書き上げられました。ハルとロジャーの冒険物語はこれが全てだと長年思っていたのですが、調べてみると1979年に「Tiger Adventure」、1980年に「Arctic Adventure」という作品が発表されていました。前者はインド、後者はグリーンランドでトラやシロクマをめぐっての冒険らしいです。
また2012年から14年にかけてAnthony McGowanが4冊の続編を発表しています。ハルの息子で13歳のフレイザーとロジャーの娘で12歳のアマゾンが新シリーズの主人公だそうです。