サイト名

昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

人様の記憶に残っている本を読んでみる

いつまでもすきでいてくれる?

マーガレット・P ・ブリッジズ ぶん
メリッサ・スウィート え
まつかわ まゆみ やく
評論社

いつまでもすきでいてくれる?
イラスト:浅渕紫歩

今回は自分が昔読んだ本以外の感想文になります。
企画の簡単な説明はこちらをご覧ください。

絵本
子どもの頃に読んだ本の中で絵本はあまり手元に残っていません。
だるまちゃんとてんぐちゃん」「ぐりとぐら」といったタイトルはすぐに頭に浮かんできますし「鳥獣戯画」を絵本にアレンジしたものも好きでした。ただ、これらの本は幼稚園を通じて毎月配本される、ホッチキスで中綴じされているようなタイプのものでしたので、雑誌感覚でまとめて捨ててしまったのだと思います。

小学校入学以降、絵本との縁はほぼありません。世の中では大人も楽しめる絵本といった類のものが時折話題になっていたような気もしますが、特に興味は持ちませんでした。
本や雑誌がなかなか売れない今、絵本だけは売り上げを伸ばしているそうです。少子化なのになぜ?と思ったのですが、そもそも絵本を買うのは幼児ではなく親なので、そちらをターゲットにしたところ効果が出たということらしいです。もちろん優しさや癒しを絵本に求める大人の読者が増えたのも大きな要因でしょう。

1999年に出版された「いつまでもすきでいてくれる?」のことは全く知りませんでした。このサイトをやっていなければ生涯読むことはなかったかもしれません。


まず読んでみる
親に読んでもらったり、字を覚えたての子ががんばって自力で読むような、いわゆる正統派の絵本ですので、大人であればものの数分で読めてしまいます。

カンガルーのお母さんとぼうやの会話が中心のお話です。遊んでいた公園から家に帰る途中でぼうやが尋ねます。

おおきくなっても ぼくのこと かわいい?

もちろんよ。ぼうやが げんきで おおきくなることが、ママの ねがいよ。

大人になったとしても、リンゴの木になったとしても、石鹸になったとしても。
ぼうやの質問はお休みのベッドに入るまで続き、その全部にお母さんが優しく答えてくれる様子が柔らかく暖かい色合いの絵と共に紡がれていきます。


もう少し読んでみる
何回か読んでいるうちに、最初に頭に浮かんできた「全肯定してくれるママ」という言葉は感想として正しくないことに気がつきました。どうやら優しいお母さん=全肯定という偏ったイメージに毒されていたようです。

自分がぬいぐるみのくまになっちゃったら?と尋ねるぼうやにお母さんはこう答えます。

ほつれた ところを かがってあげる。
ママが さびしい ときに だっこを するわ。

特に肯定も否定もなく、ただあなたを愛していますという単純なメッセージがあるだけです。

ぼうやの質問の内容は、もし悪いことをしたら?というような行動にまつわるものではなく、何かに変化してしまったら?というものです。
自分はどんどん大きくなっていくけれど「いつまでもすきでいてくれる?」というかすかな不安を優しく払拭してあげる物語だったわけです。

WILL YOU TAKE CARE OF ME?
これが「いつまでもすきでいてくれる?」の原題です。LIKEでもLOVEでもないことになるほどと思ったりもしました。
自分の中学生レベルの英語力だと「面倒見てくれる?」と訳してしまいそうなタイトルが「いつまでもすきでいてくれる?」になるのですから、やはり翻訳家はすごいです。


絵本の作り方
「いつまでもすきでいてくれる?」はカンガルー親子の物語です。カンガルーといえば子守上手のイメージがあり、このお話のキャラクターにはピッタリです。
しかし文中では彼らがカンガルーであるとは一言も触れられていません。絵も、ぼうやがお腹の袋から顔を出している描写が少しはあるものの、むしろ印象に残るのは自転車に乗っているお母さんやベッドで寝かしつけられているぼうやといったヒトらしい振る舞いの方でした。

仮に「いつまでもすきでいてくれる?」の文章にイヌやネコ、あるいはヒトといったキャラクターを当てはめても成立はするんだな、というのが普段絵本に接する機会の少ない者にとっての新鮮な驚きでした。

作者が文章と絵の両方を担っているのであれば、その創作過程はなんとなく想像がつきます。
しかしこの作品のように担当が分かれている場合、絵本はどのように作られるのかちょっと興味がわきました。

(2021.7.21更新)

»ひとつ前の感想文を見る

ページのトップへ戻る
inserted by FC2 system