「学校を休んで、1年間、わたしや友人の科学者仲間のお供をして、みっちり実地教育でしこまれるのもいいだろう。」
父親のこんな判断から、今作では火山学者のダン・アダムズ博士と共に世界各地の火山を巡ります。火口調査が冒険の中心なのでいつものようにたくさんの動物が出てくることはないのですが、がっかりなんてしていられませんでした。なぜなら最初の調査地が日本だったからです。
1970年代の世界に於ける日本の地位はまだまだ低かったこともあり、海外の映画やお話の中でちょっとでも日本に触れられるシーンがあるとそれだけでなんだか誇らしい気分になれたものです。ハルとロジャーの来日にテンションが上がらないわけがありません。
浅間山や三原山、阿蘇山を皮切りに、太平洋の海底火山、ハワイのマウナ・ロア山へと危険な冒険が続く中、別府では地獄めぐりや砂風呂、果てはお猿の電車まで楽しむ兄弟の姿に、日本を気に入ってくれたかなとわくわくしたものです。
◆ハワイでは流れ出た溶岩の表面が冷えて固まり空洞となった内部に人が住んだり、泥棒の隠れ家になったりしている。
◆ベスビオス火山の噴火によってボンベイ、ハーキュレニアムという町では多くの人が火山灰で生き埋めになった。
このくだりでは泥の雨に襲われたハーキュレニアムの描写がショッキングで怖かったです。
人びとは動けなくなった。助けをもとめても、だれも助けてくれない。どろは、腰へ、腹へ、胸へ、首へと、人をうずめていった。口、鼻、目、頭の上へと、つもっていった。
熱いお茶を飲み、豆をつぶしたあまいものがはいっている、めずらしい小さなお菓子を食べた。
普段から当たり前のものとして食べていたアンコが外国人にかかると「豆をつぶしたあまいもの」と表現されていたのが新鮮でした。
作者のウイラード・プライスは何度も訪日していて、戦争前夜には特高警察に目をつけられるなど、実はスパイだった説もあるような人物でした。その真偽はわかりませんが、長期滞在していたおかげで日本文化についての描写はかなりしっかりしています。ただ、どんなに正確を期したとしても、洋画に出てくる日本人のお辞儀の所作がちょっとおかしく感じてしまうような、微妙な違和感を覚える部分はあるものです。
例えば浅間山では日本人の自殺の多さについて語られます。
失業した男、悪い子を持った母親、悲しい運命の恋人たち、試験に失敗した学生が、死に場所をもとめて、火口にとびこんでいる。
ヨーロッパやアメリカでは、心にせおった重荷から、こんな方法で逃げだすのは、ひきょうだとされている。日本人は、そうは考えない。だから毎年、希望をなくしたおおぜいの人が、日本の58もある活火山にそれぞれおいでの火の神の腕に、とびこむ。
自殺の原因や日本人が自殺に対してあまり卑怯だという感情を持たないことなどがきちんと説明はされています。三原山にたった1年で129件もの投身自殺があった時代も確かにありました。しかしこの書き方だと欧米の子どもたちの中には「日本人は自殺する時、だいたい火山に飛び込む」と思い込んだまま大人になってしまった人もいたのではないでしょうか。
また、浅間山でロジャーは中学校の教師の戸栗先生からお弁当を分けてもらいます。
ロジャーは、弁当箱の中から、白いミミズのようなものを、つまみだして、なんだろうというように、かざして見た。
戸栗先生が、陽気にいった。
「タコの足ですよ。正式にいったら触覚です。ぼくはとてもおいしいと思うんだけど、あなたは好きかなあ。」
「好きです。」
とはいったものの、なにしろ、食べるのは生まれてはじめてだ。ロジャーは目を白黒させて、一気にのみこんだ。
アマゾンではヘビやイグアナを食べていたロジャーがタコに苦戦するのは愉快でした。今回読み返してみて思ったのは白いミミズのように見えたのならばタコというよりはイカの脚なんじゃないかということです。まぁ、日本人以外は気にもとめない、細かいことなんですが。
ちなみに題名になっている火口探検船というのはガラス張りのポッドのようなもので、ケーブルで吊るして火口の中を調査するものです。読売新聞の協賛などと妙に具体的に書かれているのが気になって調べたところ、1933年に実際にゴンドラによる調査がおこなわれていました。高所恐怖症というわけではないもののウィキペディアで見られる写真はさすがにちょっと怖いです。