自分の持っている本は「学研世界名作シリーズ」の一冊として出版されたものです。低年齢向けにリライトされたバージョンではなく完訳版なので児童書とはいえ読み応えがありました。
サバイバルの中での人間関係が丁寧に描かれ、後半には島から脱出できるチャンスと結びつく大きな展開が待っています。しかし子どもたちが遭難するはめになってしまった理由などは覚えていたというのに、この一番盛り上がる部分についてはなぜか全然頭に残っていませんでした。記憶力低下を嘆くよりは新鮮な気持ちで楽しむことができたので良かった、ということにしておきます。
子どもたちがたどり着いた島は南アメリカ大陸の南端あたりに位置し、冬ともなれば気温はマイナス30度まで下がって深い雪に覆われてしまうような環境です。
大きさも半日あれば一周できてしまいそうなこじんまりとしたものではありません。少年たちは彼らよりもずっと前にこの島に漂着した人物の白骨を発見し、その遭難者が描き残した島の地図を手に入れます。
(前略)南北のいちばん長いところがおよそ八十キロ、東西のはばのいちばんひろいところが四十キロとなった。海岸線の不規則な凹凸を考えにいれて、島の周囲は延長二百四十キロぐらいであった。
調べてみると日本で一番大きい島は新潟県の佐渡島で、東西32.7km、南北59.5km、海岸線280.4kmでした。地形なので単純に比較はできないものの、無人島はなんとなく思い描いていたよりはるかにでかかったのだなということがわかりました。
「雌牛の木」とも呼ばれるガラクトデンドロンという不思議な木にも驚かされました。
(前略)その樹液は、味も栄養も牛乳そっくりなのだ。おまけに、それをかたまらせると、上等のチーズのようになり、同時に蜜ろうのような、まじりけのないろうがとれる。
現代の常識からすると「ん?」と思ってしまう部分は、作品が発表された1888年頃に得られたであろう情報の質と量を考えれば致し方ないところでしょう。
ちなみに「スイスのロビンソン」は「密猟王黒ひげ」の感想文で触れた通りの作品です。「十五少年漂流記」にも影響を与えていたんだと改めて驚かされました。フローネ、すごい(原作には出てないですけど)。
「せっぷんさせて、にいさん!」
と、ジャックがいった。
ブリヤンは、胸がどきどきするのをおさえながらこたえた。
「いいとも、せっぷんしてくれ。というより……ぼくのほうが、おまえにせっぷんするんだよ。いくのは、ぼくだから。」
弟を危険な目に晒すことはできないと兄が任務の肩代わりを宣言するいいシーンなのですが、つい「せっぷん」という言葉にさすがに古いよなぁと反応してしまいました。
他の翻訳も気になって波多野完治訳の新潮文庫版(1951年初版)をチェックしてみたところ「キッス」となっていて、こちらも小さい「ッ」に微妙な古さを感じてしまいました。