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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

無人島の三少年

バレンタイン 原作
那須辰造 編著
武部本一郎 絵
偕成社 昭和47年発行 390円

無人島の三少年
イラスト:浅渕紫歩

30年前
嵐で難破した船から南太平洋の無人島に漂着した少年たちの冒険物語です。

ひとりはジャック・マーチンといって、年は十八才。せが高く、がっしりしたからだつき、そのうえ頭がよくて、しんせつで、やることはライオンのようにゆうかんですが、気だてはとてもやさしいのです。
もうひとりのピーターキンは、十三才。ちびで、リスのようにすばしこくて、なかなかのいたずらっ子です。
さいごのひとりは、ラルフ・ローバー。十五才。小さいときから海がだいすきで、りっぱな船長になるのが、なによりののぞみでした。

食料を確保し、島のいろいろな場所に自分たちなりの地名をつけ、かつて同じように遭難したであろう人の白骨を発見するといった展開は「十五少年漂流記」によく似ています。少年と無人島というテーマを選択した段階で同じようなお話にはなるだろうし、もしかしたら「十五少年漂流記」のヒットにあやかって書かれたものなのかもしれないなどと勝手な想像もしましたが、それは大きな間違いで「無人島の三少年」の方が31年も早い1857年に出版されていました。

ちなみに「十五少年漂流記」の中でも触れられている「ロビンソン・クルーソー」と「スイスのロビンソン」の出版年はそれぞれ1719年と1812年です。1719年の日本といえば「暴れん坊将軍」でおなじみの徳川吉宗の治世だったわけで、「ロビンソン・クルーソー」すげぇと思わずにいられません。


レトロな味わい
少年たちはサメと戦ったり、冷酷非道な海賊に囚われてしまったり、近隣の原住民たちの抗争に介入して政略結婚させられそうな女性を助けたりしながら、少年向け冒険小説のお手本的な活躍を見せてくれます。食料の心配をするような描写はあまり出てきませんので、サバイバルよりアクションに比重を置いたストーリーと言っていいでしょう。
もっともストーリーの展開より記憶に残っていたのは、少年たちがゆらゆら動く青白い光を海中に発見する場面でした。その正体は水の中の洞穴からの照り返しで、光をたどっていくと大きな洞窟に出られます。後に海賊の襲撃を受けた際、少年たちはここに避難しました。
たぶん秘密基地的なものへの憧れがこのエピソードを印象深いものにしたのではないかと思います。

小学校中学年向きにリライトされた作品ですので、オリジナルと比べるとダイジェスト版のようになってしまっているのかもしれませんが、おかげでテンポよく楽しく読めました。

那須辰造編著による版の初出は1959年ということもあり、訳などは今の時代の人には古臭く感じられると思います。

「ラルフ、どうだい、気ぶんは。」
ジャックが、やさしく声をかけました。
「えっ、気ぶんだって。ジャック、いったい、ぼくがどうかしたのかい。」
「よせやい。」
と、こんどは、ピーターキンがいいました。

しかし、かつてそうした時代を経験してきた者にとっては、こうした古臭い言いまわしも懐かしく、少年時代の気分を蘇らせてくれる効果がありました。

古臭い言いまわしと言えば少年たちが戦ったサメは作中ではフカと表記されています。一瞬「今の若い人たちはフカなんて言われてもわかんないでしょ」という昔のことを得意気に語りたがるおっさんモードが顔を出してきたのですが、すぐに「フカヒレ」という言葉が広く浸透していることに気づきました。


有名ではない
「無人島の三少年」は全60巻からなる「児童名作シリーズ」の中の一冊でありながら、その存在はあまり知られていないと言っていいでしょう。
「家なき子」「海底二万マイル」「ふしぎの国のアリス」「若草ものがたり」といった誰もが知っている作品が名を連ねているシリーズのラインナップを眺めていると、なぜここに「無人島の三少年」が加えられているのか不思議に思えてくるくらいです。

原住民同士が戦で殺しあったり、海賊が大砲で多くの人々を虐殺するといった血なまぐさい場面は多いものの、基本的には少年たちが「正義」を貫いて行動する勧善懲悪の健全な作品です。
ただ彼らの掲げる「正義」は原住民の事情をあまり考慮しない、白人世界のものだったりします。そうした点も、かつては多くの子どもを楽しませたであろう作品が現代まで生き残れずに埋もれることになってしまった原因のひとつなのかもしれません。

小学生向けの本ですので挿絵も豊富です。子どもの頃はこれっぽちも思いませんでしたが大人の目で見るとなんとなく艶っぽい感じがします。
絵を担当している武部本一郎は児童書やSF小説に多くのイラストを提供している大御所で、画像検索をするとなじみのある絵がたくさん出てきます。
以前感想文を書いた「地底恐竜テロドン」の絵を描いてる方でもあります。

(2019.4.6更新)

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