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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

パディントン フランスへ

マイケル・ボンド 作
ペギー・フォートナム 画
松岡享子 訳
福音館書店 一九七〇年十二月一〇日 初版発行
一九七一年二月一日 第二刷発行 420円

パディントン フランスへ
イラスト:杉本 早

ラッキーなクマ
「暗黒の地ペルー」からイギリスに渡ってきたクマのパディントン。「くまのパディントン」シリーズは全部で15作品あるそうです。本作は4番目の作品で、お世話になっているブラウンさん一家と共にフランス旅行に出かけるお話になっています。

読み返してみて楽しかったのは、旅の準備に余念のないパディントンが銀行から預金を引き出した際の騒動でした。

「これ、まちがっています。」と、パディントンは大声でいいました。「これ、ぼくのお札じゃありません。」
「まちがってる?」 男は、顔をこわばらせていいました。「当フロイド銀行は、まちがいなどぜったい起こしません。」
「でも、これ、番号がちがってるもの。」と、パディントンは、かっとしていいました。

几帳面なパディントンはお札の番号を控えていて、自分が預けた時と同じお札が返ってくるものと思い込んでいたのです。

出発前からこんな具合ですので、フランスに到着してからもクルージングで遭難したり、ツール・ド・フランスに三輪車で飛び入り参加することになったりとトラブル満載のバカンスとなります。しかしいつも結果オーライ。なんとなくうまい具合に収まってしまうのでした。

「パディントンだけがそうなのか、」と、ブラウンさんは、つぶやきました。「それともクマというものは、全部このように、いい星の下に生まれているのだろうか!」

ブラウンさんのつぶやきがパディントンの並外れた運の良さを物語っています。まぁ、幸運が次々と訪れるというよりは、トラブルや不幸を無効にする能力と言った方がいいのかもしれません。


大盤振る舞い
居候のパディントンと家政婦のバードさんまで連れての海外旅行はかなりの出費だったことでしょう。フランスへは飛行機を利用します。

ですから、パディントンは、今からみんなであの一つに乗るだけではなく、ブラウンさんの車もいっしょに積んでいくのだと聞かされて、すっかり感心したようでした。

なんと現地での移動手段として自家用車まで運んでしまいます。普通の旅客機でこんなサービスが実際にあったのかどうかはわかりませんがオーバーウェイトがものすごい金額になりそうです。
パディントンを簡単に受け入れたり家政婦さんを雇っていたりはするものの中流家庭のイメージがあるブラウンさん一家のお財布は大丈夫なのだろうかといらぬ心配をしてしまいました。

庶民の家族旅行を描くといえば「商店街の福引で当たる旅行券」という日本の定番設定は便利だなと改めて思ってもみたり。


でんでんむし
一番記憶に残っていたのはピクニックでパディントンが料理の腕を振るうエピソードでした。

「実にめずらしい料理だ、」ブラウンさんは、ちぎったパンで、お皿をきれいにふきとってから、もっとほしそうに、ちらちらおなべのほうを見ながらつづけました。
エスカ・・・……エスカ・・・なんとかいうんです、ブラウンさん。」パディントンは、お料理の本をしらべながらいいました。
「あ、エスカルゴ・・・・・だ。」

ブラウンさん一家はパディントンが適当に捕まえたカタツムリを調理したものと思って青くなってしまいますが、食材はちゃんと近くのお店で買ったものとわかってホッとする、というオチです。

フランス料理にはカタツムリを調理したものがあるという知識はありました。それがおかわりしたいほど美味しいものならば、一度は食べてみたいと思ったのでこのお話が記憶に刻まれたのだと思います。
大人になってから、デパ地下のお惣菜コーナーでエスカルゴを発見して購入したことがあります。味を一言でいうならば「バターとニンニクの風味が効いた貝」でした。高級レストランなどで食べればまた違った感想になったのかもしれませんが、残念ながらブラウンさん一家ほどの感動を味わうことはできませんでした。

コケモモ同様、憧れの食べ物は憧れのままの方がいいのかもしれません。


イギリスとフランス
ストーリーとはあまり関係ない部分で面白かったのはイギリスとフランスの距離感です。イギリス人にとってフランスは気軽に行くことのできる地域のように思っていました。例えるなら東京の人が新幹線で大阪に行くような感覚です。
ところが出発前のブラウンさん一家のウキウキぶりを見て、やはり外国に行くという意識はそれなりにあるものなんだなと思い知らされました。まだドーバー海峡の海底トンネルができる前のお話ですので、渡仏のハードルは今よりも高かったのかもしれません。

また極東に生息している身としてはヨーロッパの国々などは似たり寄ったりなんだろうと思いがちです。イギリスとフランスも言語が違うとはいってもちょっと頑張ればコミュニケーションとれるんでしょくらいに思っていたのですが、どうやらそうでもなさそうなこともわかりました。

その昔、オーストラリア人に対してからかい半分で「オーストラリアとニュージーランドって同じようなものだよね」と言い放ってみたところ即座に「全然違うよ!」と反論され「あぁ、日本と中国は同じようなものだと言われたらすぐに否定したくなるようなものか」と変に納得したこともついでに思い出しました。

(2020.2.28更新)

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