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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

あしながおじさん その1

J・ウェブスター 作・画
坪井郁美 訳
福音館書店 一九七〇年八月二十五日初版発行 600円

あしながおじさん
イラスト:あみあきひこ

長くなってしまいましたので2回に分けました。

知ってるつもり
4才上の姉からのおさがりです。
表紙を開くとかつて作ったことのある飛行船のプラモデルの組立図が挟まっていました。もしかするとしおりとして使おうとしたのかもしれませんが、読んだ記憶はないので今回が初読といっていいでしょう。

身寄りのない少女のジュディーは高校の卒業と共に暮らしていた孤児院を離れることになっていました。ところが学校の成績が良く、中でも国語を得意としていた彼女を大学で学ばせようという篤志家が現れます。なんと四年間の授業料と寮費ばかりでなくおこづかいの面倒までみてくれるというのです。
この高待遇を受けるためにジョン・スミスという偽名を名乗る紳士が提示してきた条件はたったひとつ、月に一度スミス氏宛に手紙を書くようにというものでした。将来作家になることも夢ではないと思われるジュディーの能力を更に伸ばすためにはそれが一番いいだろうという判断からです。

お金持ちの紳士が貧しい少女に援助の手を差し伸べる物語だということはなんとなく知っていました。ただ知っているつもりでも実際に読んでみると思っていた内容とは違った、というのはよくあることです。
最初の十数ページでジュディーが援助を受けるに至った成り行きが説明され、次に彼女の初めての手紙が出てきます。

ファーガッスン寮 二一五号室にて
九月二十四日
孤児を大学にやってくださるご親切な評議員さま
とうとうやってきました! きのうは四時間も汽車の旅をしました。わくわくするような妙な気分ですね? 汽車に乗るのははじめてだったんです。(以下略)

物語はこのまま最後までジュディーが出した手紙の形式で綴られます。「あしながおじさん」が書簡小説だということを初めて知りました。

また本作品にちなんで名付けられた「あしなが育英会」のイメージからか、なんとなく弱者救済をメインテーマにした道徳的でお堅いお話かと思っていたのですが、そんなこともありませんでした。


アン・シャーリー
返事はもらえないという取り決めがあったもののジュディーはこまめに手紙を出し続けます。孤児院で育った彼女にとっておじさんは、これまでの人生で縁のなかった肉親に等しい存在となっていたのです。

わたし、大学が大好きです。それから、ここへよこしてくださったおじさんも大好き。とっても、とってもしあわせで、一瞬一瞬が興奮の連続で、ほとんど眠れないくらいです。

女性にまだ選挙権が与えられていなかった時代でありながらジュディーは社会に出て活躍し、孤児院の環境を改善したいという気概をみせてくれます。

表現力と想像力に富む彼女の手紙には年頃の女の子のおしゃべりを延々と聞かされているような作用があり、同時代の作品である「赤毛のアン」が頭に浮かんできたりもしました。アン・シャーリーも孤児であり、豊かな才能と高い向学心を持っています。
女性の社会進出の機運の高まりが両作品の誕生に影響したのは確かでしょう。

充実した学生生活の中でジュディーはクラスメイトの叔父であり、たまたま近くまで来たので姪の顔を見に立ち寄ったというジャービス・ペンドルトンと出会います。ジャービスは上流階級の者でありながら格式張った感じのしない、そういう意味では変わった青年でした。そんな彼にジュディーは徐々に惹かれていきます。


ラブロマンス
読者はジャービスがあしながおじさんその人であることを早々に確信し、その正体に一向に気づく様子のないジュディーをやきもきしながら見守ることになります。
「あしながおじさん」が恋愛小説だということもこの歳にして初めて知りました。

物語の最後でジュディーはあしながおじさんと対面し、ようやく真実に気づきます。
その時の様子は手紙で次のように書かれています。

すると、あなたは、手をさし出して、笑いながらおっしゃいましたね。「ジュディーのお嬢ちゃん、ぼくがあしながおじさんだって、気がつかなかったかい?」
その瞬間、電光がひらめきました。ああ、それにしても、わたしのまぬけだったこと! ほんのちょっと頭をめぐらせば、そうとわかるきっかけは数えきれないくらいあったはずなのに。わたしは、探偵になれそうもないわね、おじさん?
——ジャービー? あら、わたしあなたを何てお呼びすればいいの?

そしてお話は「追伸」の一行で締められます。

これは、わたしがはじめて書いたラブレターです。書き方を知ってるなんて、おかしいわね?

往年の少女漫画のようなハッピーエンドだ!と思ってしまったのですが、発表された年代から考えても「あしながおじさん」が日本の少女小説や少女漫画に影響を与えたと考える方が正しいでしょう。

「あしながおじさん」はプラモデルやアストロ球団に熱中していた頃の自分の好みとはかけ離れた作品でした。
女子大生などは自分たちとは関係のない、おばさんに近い存在で興味もありませんでした。読まずに放置していたのも納得です。

大人よりも子どもの方が柔軟でいろいろなものを受け入れやすいと言われたりします。しかし「あしながおじさん」に関しては現在の自分の方が楽しめたと思いますので、そうした考えも場合によりけりなのでしょう。

(2021.6.14更新)

»あしながおじさん その2

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