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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

あしながおじさん その2

J・ウェブスター 作・画
坪井郁美 訳
福音館書店 一九七〇年八月二十五日初版発行 600円

あしながおじさん
イラスト:浅渕紫歩

そこそこのテキスト量になってしまいましたので2回に分けました。

ちょっとした懸念
「あしながおじさん」は基本的には白馬の王子様系の物語だと思います。
しかしジャービスが正体を明かさないままジュディーとの距離を縮めていこうとする様子を見ていると、今の時代このプロットのままの物語は作れないなとは思ってしまいました。

もちろんジャービスは下心があってジュディーを援助したわけではありません。過去にふたりの少年を同じような待遇で大学に通わせたという記述もあります。
ジュディーの文学的才能を伸ばしてやりたいという純粋な気持ちが、彼女の飾ることのない生き生きとした手紙に触れていく内に愛おしく思う感情へと変化していったのです。自分があしながおじさんだと明かさなかったのも、支援とは無関係の、ジャービス・ペンドルトンというひとりの男として愛して欲しいという思いからだったに違いありません。

そうした諸々の状況は十分承知の上で、それでもジュディーが他の男性と出会う機会を「あしながおじさん」が秘書を通じてさりげなく妨害する様にはちょっと引いてしまいました。
二十歳そこそこの世間知らずの孤児と成人男性という組み合わせも現代だといらぬ物議を醸しそうです。

ちなみに無料公開されているアニメ版の第一話を観てみたのですが、こちらは視聴者層に合わせたためかジュディーの進学先がハイスクールということになっていました。年齢設定は13歳らしいので、事案感はより増してしまいます。


少女漫画への影響
アニメ版である「私のあしながおじさん」のwikipediaには次のような記述がありました。

本作品の放送終了後、ファンからスタッフに「最終回が『キャンディ・キャンディ』とそっくりでがっかりした。盗作ではないのか」という手紙が届いた。『世界名作劇場大全』によると、スタッフの間では『キャンディ・キャンディ』の方が「あしながおじさんのパクリ」という認識が強かったとされている[1]。また『キャンディ・キャンディ』の原作者の水木杏子自身、講談社編集部の企画に応じて、この『あしながおじさん』等過去の名作を参考にしてストーリーのアイディアを練ったことを自らの著書等で公表している。

キャンディ♡キャンディ」は1970年代に大ヒットした少女漫画です。
先に書いた少女小説や少女漫画に大きな影響を与えたんだろうなという考えが裏付けられたようで、ちょっと嬉しかったです。


イラスト
ジュディーの書く手紙にはよくイラストが添えられます。
決してうまいとは言えない絵はジュディーをより身近な存在として感じさせるのに大きく役立っています。豊富に散りばめられているイラストはすべて作者のJ・ウェブスターの手によるものです。

「あしながおじさん」は今でもたくさんの出版社から出ていて、表紙のデザインもオリジナルを生かしたものから小学生女子に受けそうな今風のものまで様々です。
表紙がコミック、アニメ調になっている古典的名作に抵抗を覚える方もいらっしゃるのかもしれませんが、個人的には今回読んだ「福音館古典童話シリーズ」のような表紙よりも「角川つばさ文庫」版や学研の「10歳までに読みたい世界名作」版などの方がより内容を表しているような気がして好感を持っています。
特に新星出版社の「トキメキ夢文庫」版は「胸キュン!感動のラブストーリー」というキャッチコピーも気に入りました。男子が手に取る機会は減りそうですけれど。


作者について
巻末の作者紹介文で母親がマーク・トウェインの姪であることを知りました。
トウェインについては「川っ子サムの冒険」で少しばかりの知識を得ています。5人きょうだいでしたが長兄以外は早くに亡くなっていますので、ジーン・ウェブスターは長男であるオーリオンの娘だと思われます。また、ウェブスターの父親はトウェインと共同で出版社を経営していました。 大叔父との間にどれだけの交流があったのかはわからないものの「あしながおじさん」にみられるユーモアに溢れた文体はトウェインの影響が大きいのでしょう。

ジーン・ウェブスターは1912年に弁護士と結婚し、翌年に女の子を出産しましたがその翌日に39歳で亡くなったそうです。
作者の分身とも思えるジュディーに幸せな結末が訪れたすぐ後でこの情報に触れてしまったため、少し悲しくなってしまいました。

(2021.6.14更新)

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