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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

猛獣いけどり作戦

フランク=バック 作
白木 茂 訳
横内 襄 絵
講談社 昭和47年11月16日 第1刷発行
昭和48年1月28日 第2刷発行 320円

猛獣いけどり作戦
イラスト:点線

ノンフィクション
少年少女講談社文庫の一冊です。「トム=ソーヤーの冒険」の感想文でも書いた通り、少年少女講談社文庫はジャンルによってカバーが色分けされていて『科学・記録となぞなぞ』部門だったこの本は青い背表紙です。青背表紙では他に「わたしは幽霊を見た」「記録なんでも日本一」といったタイトルがラインナップされていました。

冒頭のページには

これは、アジアのジャングルでの体験談です。野生動物の収集家として有名だったアメリカのフランク=バック(1884~1950年)が、とくに少年少女のためにかいたものです。

という一文と共に捕獲したニシキヘビを前にした著者の写真が掲載されています。

本文で語られているのはゾウ、ヒョウ、トラ、オランウータン、コブラなど南アジアに生息する野生動物をフランク=バックがいかにして捕らえたかというお話です。
ハルとロジャーの冒険大作戦」のリアル版を期待して購入した記憶がおぼろげながらあります。ただ、活躍するのはハルとロジャーのような少年ではなく、ノンフィクションなので主人公の命を狙ってくるような悪党も出てきません。そのせいか、思っていたより地味な内容だったという印象しか残っていませんでした。


センザンコウ
いざ読み返してみると「ああ、なんとなく頭に入っていた知識の元はこの本だったのか」といういくつかのエピソードと再会することができました。

例えばセンザンコウのアリの捕らえ方についての知識がそうです。センザンコウは哺乳類でありながら硬いウロコを持っていて、敵に襲われた時は丸まって防御する、見た目はちょっとアルマジロに似た動物です。
大好物であるアリの大群を見つけるとセンザンコウは自分のウロコを立てた状態で群の真ん中に寝そべり、身体がアリに覆われてしまったところで急にウロコを寝かせます。そしてウロコの下にアリを閉じ込めたまま近くの池に向かうのです。

センザンコウは、その池にあるいていくと、ザブンとはいりこんで、しゃがみ、うろこをのこらずもちあげました。
すると、うろこの下にとりこになっていたアリが、のこらず水面にうかびあがりました。センザンコウは、ねばねばした、ながい舌をだして、ぺろりぺろりと、水面にうかんでいるアリのごちそうをたべはじめたではありませんか。

記憶に刻まれるのももっともな、面白い行動です。
ところがです。動物学者の小原秀雄によるあとがきにはこんなことが書かれていました。

このバックさんのお話は、話をおもしろくするために、動物のすごさや強さ・ちえなど、それに大きさなどがおおげさに書かれています。動物の性質も、土地の人からつたえきいたことがそのままのせられたりしています。

子どもの頃はあとがきを読む習慣がありませんでしたので、今回初めて触れた情報でした。

調べてみるとセンザンコウの件も俗説らしいことがわかりました。確かに本当にそんな珍しい習性があるならば紹介記事やら動画やらが出回っていてもよさそうなのに全然見つけられません。
まぁ、ちょっと考えてみれば、目の前にアリがいるならその場で「ぺろりぺろり」といただく方がはるかに効率がいいということはわかります。しかしこの情報に初めて触れたのは、本に書かれていることは概ね正しいと思っている、まだ純真な小学生の頃のことです。バックさんが自分が目撃したこととして書いているわけですから「センザンコウすげえ!」となるに決まっています。


何者なのか
ウィキペディアではフランク=バックの肩書きは「アメリカのハンター、動物コレクター、作家、映画俳優、監督、プロデューサー」となっています。
ギャンブルで得たお金でブラジルに旅行し、たまたま捕まえた珍しい鳥が高値で売れたことから動物ハンターとして一山当てるまでになりました。更にその体験を本や映画にすることで高い人気を得たそうです。研究者肌というより機を見るに敏な、商才に長けた人だったのかもしれません。
ポートレートはかっこよくサファリルックで決めていますが、プロフィールを知ってしまうとなんとなくうさんくさく見えてきてしまいます。あと、今の視点だとコントに出てくる探検家っぽくもあります。

それでもフランク=バックが多くの動物を捕らえ、動物園やサーカスに大きく貢献したことは事実です。
お話を盛ってしまうのも悪意からではなく、サービス精神の表れだったのでしょう。この本を通じて子どもたちにジャングルの魅力や厳しさを伝えたいという気持ちに嘘偽りはなかったと思います。キャラクターとしては日本のムツゴロウさんみたいな存在だったのかもしれません。

今回は新しい情報が得られた読み返しとなり、面白かったです。

(2019.6.18更新)

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