「密猟王黒ひげ」の感想文で書いたように『不思議な島のフローネ』というアニメの原作にもなっています。しかし女の子のフローネにお兄ちゃんと弟、それにお父さんとお母さんがいる5人家族という設定のアニメに対して、「スイスのロビンソン」一家は両親と9歳から16歳の男の子4人の6人家族です。お父さんの一人称で進む物語は家族によるサバイバルというコンセプト以外アニメとはほぼ別物といっていいかもしれません。
作中、フラミンゴを蒸し焼きにして食べる場面が出てきます。
小さな骨まで残さずしゃぶるほどうまかった。
この作品の影響を強く受けているであろう「十五少年漂流記」にもフラミンゴがおいしいという描写が出てきたと思います。大きな鳥というのはなんだか固くてまずそうな気がするのですがどうなんでしょうか。
おそらくどちらの作者も実際にフラミンゴを食べたことはないんじゃないかと睨んではいます。
お父さんは野生の綿花を発見すれば、綿と種を分離する器械まで作ってしまいます。
以前、ロンドンの東インド会社博物館で、実物を見たことがあるので、自信はあった。
事も無げに語っていますが、あまり複雑なものではないとはいえ、昔見ただけのものをロクな工具もない環境で作ってしまうのですからすごいです。こんなお父さんがいれば遭難も怖くありません。
また、種と分けられた綿はお母さんの手によってどんどん紡がれていきます。お母さんもなかなかのツワモノといっていいでしょう。
更に一家は漂流10年目にして初めて人間と出会うことになります。それは別の船で遭難し、2年以上をたったひとりで生き抜いてきたイギリスの若い女性でした。この人のサバイバル能力も相当なものだと思います。
一家が女性を暖かく迎え入れてから間もなく、今度は遭難者たちの前にイギリスの船が現れます。
「こんなことがあり得ようか! 人間! 船! 同じヨーロッパ人! 救出! 祖国!」
お父さんの心の底からの喜びの声であり感動的な場面ではあるのですが、どうもアニメ版「カイジ」のナレーション風に脳内再生されてしまい、つい笑ってしまいました。
これでみんなスイスに帰れてハッピーエンドかと思いきや、お父さんとお母さん、そして4人の息子たちのうち2人が帰国しないで残るという選択をします。自分たちが開拓した地に愛着があり、そこを「新スイス」として生きていくことにしたのです。
全く予想していなっかた終わり方で再度驚かされました。ヨーロッパ諸国が植民地を広げていった時代ならではの結末なのでしょう。
訳者はしばしばうんざりし、しばしば圧倒される思いでした。平易な現代語で翻訳したとはいえ、全編を読みとおすには、やはりある程度の忍耐が必要かと思われます。
子ども時代の自分であったら読み切れなかったかもしれません。とはいえ強力な父権の元、一家が団結して困難を乗り越えていく様や意外性のあるラストは十分に面白く、読んでみて良かった一冊でした。