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昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

持っていない本を読んでみる

スイスのロビンソン

ヨハン=ダビット=ウィース 作
小川 超 訳
W=クーネルト 画
学習研究社 1976年 1200円

スイスのロビンソン
イラスト:あみあきひこ

フローネ
無人島の三少年」や「十五少年漂流記」の感想文を書いたおかげで他の無人島遭難系作品に興味が湧き図書館で借りてきました。自分にとっては今回が初読となる、スイス人一家が漂着した先で生き抜いていく物語です。

密猟王黒ひげ」の感想文で書いたように『不思議な島のフローネ』というアニメの原作にもなっています。しかし女の子のフローネにお兄ちゃんと弟、それにお父さんとお母さんがいる5人家族という設定のアニメに対して、「スイスのロビンソン」一家は両親と9歳から16歳の男の子4人の6人家族です。お父さんの一人称で進む物語は家族によるサバイバルというコンセプト以外アニメとはほぼ別物といっていいかもしれません。


フラミンゴ
家族がたどり着いた地は島というよりどうやらアフリカ大陸の一部のようで、ライオンやゾウ、カバなど様々な野生動物が現れます。更にクマ、トラ、ラッコと本来生息していないであろう生物まで登場する点はこの作品が書かれた19世紀初頭の情報量を考えると大目に見たいところです。
上陸地は食料となる動物や鳥、魚が豊富な上、野生のジャガイモなどの植物にも恵まれていて、苦労はしながらも一家はそれなりに豊かな生活を送れるようになっていきます。ちなみにジャガイモの原産地は南米ですので、アフリカに自生はしていません。

作中、フラミンゴを蒸し焼きにして食べる場面が出てきます。

フラミンゴむしやき

小さな骨まで残さずしゃぶるほどうまかった。

この作品の影響を強く受けているであろう「十五少年漂流記」にもフラミンゴがおいしいという描写が出てきたと思います。大きな鳥というのはなんだか固くてまずそうな気がするのですがどうなんでしょうか。
おそらくどちらの作者も実際にフラミンゴを食べたことはないんじゃないかと睨んではいます。


お父さんが強い
父エルンスト なんとなく観ていたアニメ版で印象に残っていたのはお父さんが超有能な人ということでした。原作でもお父さんは猟から大工仕事までなんでもこなせる万能っぷりを発揮し、豊かな知識で自然物を原料にしてロウソクやゴム製品をたやすく作り出す様子が細かく描かれています。

お父さんは野生の綿花を発見すれば、綿と種を分離する器械まで作ってしまいます。

以前、ロンドンの東インド会社博物館で、実物を見たことがあるので、自信はあった。

事も無げに語っていますが、あまり複雑なものではないとはいえ、昔見ただけのものをロクな工具もない環境で作ってしまうのですからすごいです。こんなお父さんがいれば遭難も怖くありません。
また、種と分けられた綿はお母さんの手によってどんどん紡がれていきます。お母さんもなかなかのツワモノといっていいでしょう。


急展開
大きなヘビ 巨大なヘビが現れるようなイベントがたまにある以外は、必要なものを工夫して作っていく約2年間のお話が延々と続きます。
残りページが4分の1を切り、さて一家はこの地からどうやって脱出するのだろうかと思っていると、お話は突然遭難から10年後へと飛び、末っ子ですらうっすらヒゲを生やしたハタチの若者になってしまいます。アニメとは別物と思って読んでいたとはいえ、子どものまま脱出に成功したフローネとの違いに、かなりびっくりさせられました。

更に一家は漂流10年目にして初めて人間と出会うことになります。それは別の船で遭難し、2年以上をたったひとりで生き抜いてきたイギリスの若い女性でした。この人のサバイバル能力も相当なものだと思います。

一家が女性を暖かく迎え入れてから間もなく、今度は遭難者たちの前にイギリスの船が現れます。

「こんなことがあり得ようか! 人間! 船! 同じヨーロッパ人! 救出! 祖国!」

お父さんの心の底からの喜びの声であり感動的な場面ではあるのですが、どうもアニメ版「カイジ」のナレーション風に脳内再生されてしまい、つい笑ってしまいました。

これでみんなスイスに帰れてハッピーエンドかと思いきや、お父さんとお母さん、そして4人の息子たちのうち2人が帰国しないで残るという選択をします。自分たちが開拓した地に愛着があり、そこを「新スイス」として生きていくことにしたのです。
全く予想していなっかた終わり方で再度驚かされました。ヨーロッパ諸国が植民地を広げていった時代ならではの結末なのでしょう。


子ども向け
「スイスのロビンソン」は近年岩波文庫版が復刊されたらしいのですが、旧字体などが苦手なこともあり「十五少年漂流記」と同じ「学研世界名作シリーズ」として出版されたものを借りてきました。
この判断は正しかったと思います。なにしろ翻訳者があとがきで古典なりのとっつきにくさがあると書いているくらいです。

訳者はしばしばうんざりし、しばしば圧倒される思いでした。平易な現代語で翻訳したとはいえ、全編を読みとおすには、やはりある程度の忍耐が必要かと思われます。

子ども時代の自分であったら読み切れなかったかもしれません。とはいえ強力な父権の元、一家が団結して困難を乗り越えていく様や意外性のあるラストは十分に面白く、読んでみて良かった一冊でした。

(2019.5.14更新)

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