思い入れのある作品だけについ語り過ぎて長くならないよう、かなり注意して推敲を重ねたはずなのですが、やはり結構なテキスト量になってしまいました。今回で最後の3回目です。「その1」はこちらから、「その2」はこちらからどうぞ。
「スーザンじょうさんとティティじょうさん!」航海士とAB船員をこんな名前でよぶことくらい、土人の生活とほんとうの人間生活の間に横たわる溝が、どんなに深いものかを痛感させられるものはない。
つまり、自分たちの世界を理解することのない大人は異文化圏の土人同然だという意味です。
土人の中には良い土人と認めてもらえる者もいて、ウォーカー家のお母さんもそのひとりです。彼女は子どもたちだけのキャンプに細心の注意を払いながも、彼らの自主性を尊重して遠くから見守ることに徹していました。
キャンプの初日に島を訪れた時も次のように言っています。
「毎日邪魔しにはきませんから……」
「邪魔じゃないよ、おかあさん。」と、ジョンは答えた。
「とにかく、きませんよ。でも、二、三日おきに——もっとちょいちょいでもいいけれど——なにもかもうまくいってるってことしらせてちょうだいね。食べ物もなくなるでしょうしね。そうすれば、わたしたち土人はいつでも補給してあげられます。(後略)」
友達と遊んでいる姿を親に見られるのはなんとなく気恥ずかしくて嫌でしたので、ウォーカー家のお母さんの引き際を心得ている感じには関心させられました。
オーストラリア育ちで、ジョンに教えられる程の帆船操縦技術を持っている人でもあります。きっと子どもの頃には同じような冒険をして、そのことをちゃんと覚えているのでしょう。とても素敵な人だと思います。
キャンプのお話が中心ですのでいろいろな食べ物も出てきます。不味いということでなにかとネタにされてしまうイギリスの食べ物。でも、物語の中で登場人物が舌鼓を打っているのであれば不味いはずがありません。湖で釣った魚をたっぷりのバターで焼いたものなどは、こちらが魚料理に慣れている日本人だということもあってかとても美味しそうに思えました。
よくわからない食べ物もたくさんありました。
「プディング」はイギリスのお話にはよく登場するので、日本でいうところのカスタード「プリン」とは全然ちがう料理なんだという知識はあっても、具体的にはイメージできませんでした。今でもはっきりとは理解できていません。
「種入り菓子」もわからず「たねいりがし」という言葉の響きから、なぜかなにかねっとりしたものが入っているお菓子を想像していました。
原文では「seed cake」と書かれていました。パウンドケーキ的なものと思えばいいのでしょうか。当然ねっとりしたものなど入っていません。
「そうさ、おかゆだよ。」と、ディクソンおばさんが言った。「あついおかゆを腹いっぱいたべたら、かぜなんかけっしてひかないもんだって、わたしゃあいつも言ってるのさ。スプーンはあるかい?」
「たくさんあるわ。」
「ちょっとバケツん中へ牛乳を入れて、よくまぜるからね。農場じゃ砂糖を入れるんだよ。」
梅干しで食べるような白米のおかゆでないことはわかります。母親に尋ねてみたところ、オートミールではないかという答えが返ってきました。原文では「porridge」なのでオートミールで正解だったわけですが、そう教えられたところでオートミールがどんなものなのかがわかりません。文面から頑張って想像したのは「暖かい牛乳にパンを浸したもの」あるいは「牛乳をかけた後しばらく放置してふやけたコーンフレーク」でした。オートミールはシリアルの一種だということらしいので「種入り菓子」よりは実態に近づいていたようです。
母は息子の釈然としない表情を覚えていたのでしょう。しばらくして大きな街に出た時にオートミールを買ってきてくれました。母も特にオートミールに関しての知識があったわけではなく、説明書を見ながら、まぁこんなものだろうと調理して出してくれたその味は、あまり覚えていません。
吐き出すほど不味くはないが美味しいものではない。せっかく買ってきてくれたのだからと思うもののスプーンがあまり動かない。「無理して食べなくていいよ」と苦笑している母。そんなことはよく覚えています。
昔と違って今ではいろいろな種類のオートミールが簡単に手に入るようなので、今度なにか美味しそうなものをみつくろって再チャレンジしてみたいと思います。