サイト名

昔読んだ児童書をもう一度読んで感想文を書いてみる、個人の企画サイトです。

ハルとロジャーの冒険大作戦 9

恐怖のヒョウ人間

ウイラード・プライス 著
中尾 明 訳
中山正美 さし絵
集英社 昭和49年7月 初版 450円

恐怖のヒョウ人間
イラスト:椋木三郎

ヒョウ結社
アニマルハンターのハルとロジャーが今回訪れたのはまだまだ迷信がはびこり、呪術師が幅を利かせていた時代のアフリカ。父親のジョン・ハントも同行する親子3人でのハンティングは第1巻の「魔境アマゾン」以来のことです。

珍しい野生動物を探し求める中、ハント一家は村の子どもがヒョウにさらわれる事件に遭遇します。救助に向かったハルはやむなくヒョウを殺してしまい、そのためにヒョウを守り神とする秘密結社から命を狙われることになってしまいました。

20人の男たちは、すべてヒョウの毛皮を着て、ヒョウの頭をかぶり、手の指から、ヒョウのつめに似せた鉄の曲がったつめを突きだし、足にはヒョウの足を結びつけていた。

ヒョウ結社というものは実在していたようで「歴ログ」というブログに簡単な解説が掲載されています。興味のある方は「世界の怪しい秘密結社の世界」という記事の中の「6. レオパード・ソサイアティ(西アフリカ)」という項目をご覧ください。


ヒゲ
この本で一番記憶に残っていたことは結社の暗殺方法でした。ヒョウのヒゲを食事に混ぜて殺したい相手に与えるのです。本当だろうかと少々疑いつつも、かなりのインパクトを残してくれたこの暗殺方法についてはハルとロジャーのお父さんが次のように解説してくれています。

「毒じゃない。でも、毒とおなじように、人間を殺す力がある。このひげは、胃の中で消化されない。そのまま、胃壁に突きささり、炎症を起こし、腹膜炎の原因になる。
アフリカ人たちは、その病名を知らないが、ヒョウのヒゲを飲み込んで、しばらくたつと、恐ろしい苦しみかたをしながら死ぬことを、こころえている。」

食べ物に混ぜるとすれば、違和感なく飲み込める程度には刻まなければならないでしょう。ヒゲが消化されないということが本当だったとしても、口に入れた時に気づかれないサイズだと胃壁に刺さることなく、ほとんどがそのまま排泄されてしまう気がします。
仮に胃壁に刺さるものがあったとしてもヒゲそのものに毒性はないので、症状としては書かれている通り腹膜炎程度です。医療施設のない僻地であればそれがもとで死んでしまうこともあるかもしれませんが、ちゃんとした治療さえ受けられればお腹が痛い程度で終わってしまいそうです。
敵を確実に殺したいと思っている方にはあまりおすすめできない暗殺方法と言っていいでしょう。


ヒヒ
ハルとロジャーはヒョウ、カバ、スイギュウ、キリンといった様々な野生動物を捕まえ、その都度いつものように動物たちの生態が詳しく語られます。
中でもヒヒの知性の高さと凶暴性については大いに興味をひかれ

大きなものは、体重が70キロぐらいあり、人間と一対一で戦える。そいつが2頭いれば、1頭のヒョウを、ズタズタに引き裂くことができる。

という記述は強く記憶に残っていました。
また同じ頃に親しんでいた望月三起也の漫画「ワイルド7」に凶暴なヒヒを周囲に放して囚人の脱走を防ぐ収容所というものが出てきたこともあって「ヒヒはヤバイ動物」というイメージが刷り込まれてしまいました。

一方ヒヒの高い知能を示すものとして、誤って毒を口にしてしまったヒヒの赤ん坊をハルが助けるエピソードも描かれています。大人のヒヒたちはハルが赤ん坊を助けようとしていることを察し、無事毒を吐かせることに成功すると母親は感謝を表すかのような目を向けてきました。
ハルとヒヒの間で繰り広げられた一連のやりとりは「人間同士であれば言葉が通じなくてもこの程度の意思疎通は可能かもしれない」という高レベルなものです。「ゴリラの逆襲」の感想文で書いたように、いくら知能が高いとはいえ野生の動物が初対面の人間に対してここまでフレンドリーになることはまずないでしょう。


パパ
些細なことですが作中でハルとロジャーが父親のことを「パパ」と呼んでいることに違和感がありました。というのも第1巻の「魔境アマゾン」では「おとうさん」と呼んでいるからです。
訳者が違うことが原因なのだとは思います。しかしせっかくシリーズとして出しているのですから編集者なり校正者なりがちょっと注意を払って統一しておけば良かったのに、とは思いました。

校正といえばこのシリーズ、ハルと表記されるべきところがロジャーになってしまっているような誤字脱字が割と多いです。いつも行動を共にしている兄弟の名前があべこべになってしまうのは、まぁわからないでもありません。
ただ「スペイン帆船の秘宝」で「ハル」と書かれるべき部分が敵である「スキンク」になっているミスに気づいた時はさすがに笑ってしまいました。

(2019.9.21更新)

»ひとつ前の感想文を見る

ページのトップへ戻る
inserted by FC2 system